002

―――伝承の始まりの地であり終焉の地でもあるこの場所は、自分の血が騒ぐような、どこか懐かしい気がした。



扉の前まで来ると、金髪碧眼の青年が待っていた。青年は、二人の姿を認めると頭を下げる。
「ナディール神殿へようこそおいで下さいました。陛下、上皇陛下」
「久し振り。シャルト」
父は、懐かしそうに笑って声を掛ける。
彼の成人の儀以来、二十年近くその姿を見ていなかったが、その物腰の柔らかさは全く変わらなかった。
「お久しぶりでございます。父上、兄上」
シャルトは、顔を上げると微笑を浮かべた。
その微笑もまた然り。
シャルトの整った容姿と物腰に憧れる人が多いが、騙されてはいけない。
彼は、容姿とは裏腹に性格は最凶だ。
表に微笑という仮面を貼り付け、裏は冷酷という剣を持っている。ヒトが大嫌いで、親族にしか心を許さない。
「兄上?何か失礼なことを考えていませんか?」
「いや、シャルトはそんなに腰が低かったか?」
アルトの言葉に、シャルトは笑ったまま答える。
「嫌ですねぇ、兄上。僕は普段通りですよ」
………嘘だ。昔は敬語を使えど態度は大きかったはず。
まだ、シャルトが城にいた頃を思い出す。
毎日のように、何かしら問題を起こすのは、シャルトだった。
なのに、この変わり様は一体何なのか。
この二十年近くの間に、何が彼を変えたのだろう。
昔より、彼の事が分からない。
「まぁ、どの様に変わったとしてもシャルトはシャルトだ。本質は変わらぬよ」父は、二人を穏やかな目で見つめていた。
シャルトは、一瞬だけ表情を消すと、再び笑みを浮かべた。
「父上には敵いませんね。さすが伯母上が認めた方です。…それでは参りましょうか。伯母上の元へ」
シャルトは裾を翻すと、扉を開けた。



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mokuji
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