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祭司が決定したのと同時刻。
現王・アルトは、父と共に馬車に揺れていた。
馬車が向かう先は、エスタリアが眠るナディール神殿だ。
二人とも喪服に身を包み、一言も発さなかった。
正確には、自分だけが発せなかった、が正しい。
何故なら、目の前に座っている父の顔が緩みきっていたからだ。
これから行く場所は、そんな緩みきった顔ができる場所ではない。
考えていたことが顔に出ていたのか、父はアルトに向かって言った。
「お前は初めてだから、分からぬのも無理はない。……実はこの墓参りは普通の墓参りとは違って、エスタリアに会えるんだ」
エスタリアに会える?
彼女は既に亡くなっているというのに、会えるとはどういうことなのか。
その答えは、すぐに分かった。
「毎年、命日近くなると、エスタリアの魂があの世から舞い戻って来るのだ。そして、我らの前に姿を現す」
父の答えに納得すると同時に、羨ましくも思った。
母から彼女の話を幾度となく聞き、一度でいいから生きていたエスタリアに会ってみたい、と幼き頃から思っているからだ。
「父上は、生前のエスタリアを知っていますよね?彼女は父上にとってどういった存在でしたか?」
伝承の中の彼女は、誰よりも強く、誰よりも優しかったと自分は据えている。
ならば、実際に会ったことのある父は、彼女の事をどう思っているのだろうか。
普段、エスタリアの事について話すのは圧倒的に母だったためか、父から彼女の話を聞いたことは一度もない。
父は、どこか遠くを見つめながら口を開く。
「私にとって、彼女は大きな存在だった。兄弟のいなかった自分は姉のように慕っていたし、小さな身体で強大な魔力を操る姿は今も目に焼き付いている」
初めて聞く父にとっての彼女の存在も、かけがえのないものだということが窺える。
やがて、馬車の速度がだんだんと落ちて一度大きく揺れると、止まった。
「着いたね」
父は、待ちきれないといったように、先に降りて行く。アルトは、初めての場所に少し緊張しながらもしっかりとした足取りで馬車を降りた。

馬車を降りると、目の前には白亜の城が鎮座していた。庭は、王宮とそう変わらない位の壮麗さがあり、何よりも素晴らしいのは、大きな噴水があることだろう。
噴水には、エスタリアの先祖、ナディール家初代当主、レティシアとその守護獣が向かい合う像があった。
その像は、レティシアが魔族と戦うための旅に出た時の、最初の場面のようだ。

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mokuji
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