例え話などもうすでに数えきれないほど済ませた後で、今さら真新しいシチュエィションなどあるはずもないのだが、それでもこうして考えてしまうのは、もしあのとき繋いだ手を放さなければという、どうしようもなく不毛なifで。一緒にいられないのが辛いだなんて、もう半世紀は前の想いであるというのに。ルゥチンワァクのように何度も"if"を繰り返す。あの日こうしていれば、こう言っていれば、もしふたり一緒にいる権利を手放さなければ、今頃。 使い古されたそんな空想はただの例え話で、今あるリアルというものになんら影響力などというものがあるわけではないのだ。 「いやいや、妄想の力というものは時に偉大よ?」 酒をのみ上機嫌なフランスが言った。彼が上機嫌な理由は、おそらくイギリスがさほど酔っておらず、そして己の得意とする愛に関する話題が口上にのぼっているからだろう。 くいっと楽しげに酒を一口あおったフランスをイギリスは一瞥してカウンターの木目を見るともなしに見る。 「んなわけあるか。つうか、俺のは妄想じゃねえ」 言葉はきちんと使えヒゲ、と吐き捨てられた言葉に、フランスは笑い声をあげてイギリスの肩を叩く。 「そうだったそうだった!日本ちのニュアンスで使うとズレるんだった」 あの子んとこ、妄想の定義が一般人とネットじゃあズレてきててー、アニメとかがさー、などと言いつのるフランスを、イギリスは苛立った表情で睨んで口をつぐませる。 「黙れ」 「黙る、かよ」 こんな話題でさ。そう言ったフランスはじぃとイギリスを見た。 「なぁ、さっき言ったのは冗談じゃないぜ?」 「何の話だ」 真剣な顔のフランスを、イギリスはにべもなく断じる。止まっていた右手を動かして、グラスの中のスコッチをイギリスは飲み干した。 「しらばっくれんなよ。未練があるなら、本人に言いな。きっと変わる」 先程までと違い、フランスは酔いなど感じさせない優雅な動きでイギリスと同じくグラスを空けた。 い 2014/04/29 20:52(0) |