悲しい唄なら歌えたのにと、さえずるカナリアは昨日の夜に命を絶った。 幸せになってしまったから、あたしは唄が歌えないと、嘆いた末の結末だった。 自ら生をやめた彼女は、暗い夜の雨の中、くらい墓へと埋葬された。レクイエムは歌われなかった。 静かに終わった葬儀の後、ウグイスは友人であるカナリアからの最後の手紙に火をかけた。純白を誇る封筒に、黒の影は見当たらなかった。 中の便箋に書かれた文は、たった一行、それだけたった。 『この世にシャングリ・ラはあるかしら』 たった一行だけだった。 ウグイスは友人の最後の手紙を火にかけた。 白い手紙は赤に染まり、灰だけ残して燃えつきた。 ウグイスは、その灰を溶かした水でもって、一通ね手紙をカナリアに宛てた。 『シャングリ・ラの定義が、私と貴女と同じであるなら、この世にシャングリ・ラはあるのでしょう』 書き終えたその手紙を、ウグイスは丁寧にたたんで小さなカナリアの墓前に置いた。 降り続く雨が、薄い緑の手紙を叩いた。 カナリアの死に、意味はなかった。 そう囁いたのはツグミだった。 彼女の死に意味などなかった。生きないために死んだのだと。そうツグミは呟いた。真実なんてそんなものさと、言ったツグミは泣いていた。 いないカナリアの姿を探し、ムクドリは街をさ迷った。カナリアはもういないのだと、ムクドリはちゃんと知っていた。それでもムクドリは姿を探し、視線を宙へと泳がせた。 カナリアの声が聞こえた気がした。 カナリアは暗いくらい墓の下、悲しい恋を歌っていた。たった一人で歌っていた。 悲しく寂しい恋の唄を、暗く淋しい土の下、幸せそうに歌っていた。 「世界の終わりも、あなたとともに……」 幸せそうに歌っていた。 葬送 2014/04/14 21:59(0) |