幽霊 没

「キャスパーって映画、あったよね」

俺ってば、今現在そんな感じ。




気が付けば、ふわりふうわり宙を舞う半透明な存在になっていた。うわーお、トレビアン!半ば自棄になって、空中をぐるんぐるん宙返りなんかしながら叫んでみたが、残念なことに見向きもされなかった。キャスパーとは違って、万人に見えるわけじゃあないらしい。まぁ、あれみたいに生き返られる薬とかあるわけじゃないから、俺のこと見える人間がいても話し相手にしかならないんだけど。生きてる人、ウラヤマシー!ってなるくらいなら、そこらへんにいるだろう同じ幽霊仲間(未定)とナカヨクお話しした方が無難だろうし。ということで、新社会人ならぬ新幽霊人(仮)なお兄さんは、先達に幽霊としての生活(暫定)のいろはをご指導願わないといけない。ので、とりあえず近くの俺と同じ半透明な方々に適当に声をかけていくことにした。題して!数打ちゃ当たる作戦!!

「ねぇ、そこの美人さん。お兄さんとお話ししない?」

しまった!これじゃあただのナンパじゃないか!ついうっかり生前での癖が!
突然話しかけられた方の黒髪美人さんも、えって顔で固まっている。うーん、見れば見るほど美人さん。しかも、顔のパーツじたいは可愛らしいときている。すごーくお兄さん好み!ハグしたい!キスしたい!
でも、見たところアジア系の人種だから、ハグキスは自重した。いや、相手が欧米の人間でも、知らない人に突然ハグキスはしないけどね。したいけどね。それでもやっぱりアジア系は特にね、うっかり、っていうのもダメだしね。あと、この美人さん、未成年っぽいしね。

「あの、えっと……」

うわーお、トレビアン!!本日二回目。ただし、二回目は心の中だけで。この美人さん、声、低っ!しかもすごく良い声してる!ハスキーボイスな女性ですねーなんて笑ってられないレベルの低さ。いやー、オトコノコだったのか。ま、見た目とおどおどした感じがドストライクだから万事オーケー、問題なし!

「あ、ごめんね、突然。俺、幽霊になったばっかりでさ。幽霊について、いろいろ教えてほしいんだ」

ありったけの愛想とイケメンオーラと誠実さを詰め込み、下心はぎゅっぎゅと心の奥底に押し込んで俺の黒猫ちゃん(予定)に応えた。ぱっと俺の黒猫ちゃん(予定)の可愛い瞳が丸くなり、そして真剣な表情へと変わる。

「どうりで。あの、この姿になってからどのくらい経ちます?」

ちょーっとばかり硬めの表情と声で聞くもんだから、お兄さんはとても残念です!でもこれはお兄さんに興味を持ってくれたってことかな!なーんて冗談も言えない雰囲気です。人見知りっぽい感じなのに、少しばかり前のめりで距離が近い。お兄さんドキドキ!

「うーん。体感というか、感覚的には5分前くらいかな。そんなに経ってないと思うよ?」

なんだろう、幽霊的作法があるのだろうか。『幽霊になってから30秒以内に誰かひとり生きてる人間を怖がらせること』とか?そんな馬鹿な!でも素敵!さすが日本、これだからジャパニーズホラーは怖いんだな!なんか違う意味でドキドキしてきたよ!
だが、俺のそんなトキメキ(仮定)も、考え込むような俺の黒(以下略)の様子に自重して引っ込んだ。どうしたんだろう、何かあったのかな?

「そのくらいなら、いえ、でもここらの病院なんて……」






2014/03/23 02:04(0)

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