中2くらいの朝菊とエリザさん、あと悪いモブ男 「アーサー、馬鹿なことしてるってわかってます?」 土砂降りの雨の中でそう言った菊は確かに笑っていた。 「わかった上でやってる。後悔する心配なんかねーよ」 髪から垂れた滴が頬を伝う。アーサーは自分が笑顔なのを自覚した。楽しくてしようがなかった。 夏の雨は強気だが寛大で、激しく打ち付ける割には、もて余した熱を奪っていく。 溢れてくる内側の熱と、それを冷やす外側の雨が最高に心地よい。あり得ないことだが、何でもできる、そんな気になる。 「それは重畳。後でうだうだ言われても鬱陶しいだけですから」 共犯者の笑みで言って、煙る視界の中で菊は目を細めた。菊が本気で楽しんでいるときの表情だった。叫び出したい気分になる。この世の幸せが一遍にやってきたような非日常の感覚に、血液が逆流している気がした。 「お前こそ、後悔しねぇのかよ?」 慎重な割りに、誰よりも思い切りのいい菊が自ら行動を起こした際、後悔するはずもないのはアーサーだってよく知っている。だが、アーサーは聞いた。 「愚問ですね」 その言葉と不敵な笑顔のために。 「あぁ、そうだな、愚問だ」 跳ね上がる前輪を力ずくで抑えつけ、雨で滑る後輪をさらに滑らせて急カーブを曲がりきる。 目的地である教会が見えた。 「さぁ、子どもの特権、存分に行使させてもらいましょうか」 *** 粛粛と結婚式は進んだ。純白のドレスに包まれたエリザベータは、小さく白い花のあしらわれたヴェールの奥、寂しげに笑っていた。誰にも気付かれることもなく。 ヴァージンロードを進み、エリザベータを待っていた男の腕に手をのせ、エリザベータは思う。少女だった自分はもういない。女である自分も。いるのは、醜く情けない、大人(ジブン)。 ほってりとした顔の神父が、こほんと乾いた咳を1つし、聖書を開いた。 「その結婚、待ってもらう」 エリザベータだけでく、式場全ての人が入り口である、荘厳な扉を振り返った。全身を濡らしたタキシード姿の少年2人が立っていた。 「きっきみたちは!」 エリザベータが2人の名を呼ぶより早く、男がひきつった声を出した。青ざめ狼狽える男と対象に、雨に濡れても頬を上気させた2人は、エリザベータへと笑って見せる。少年独特の、自信に満ちた表情で。 2013/11/09 16:19(0) |