かつての隣人は同居人になり、秘密が露呈したが大人の懐の広さに感謝する結果になった。
さらに前の住居を放火した犯人を見つけてくれた子どもたちや豪邸の家主の同級生たちと仲良くなった。
秘密を隠しながらの生活は変わらないが、以前ほど息苦しさを感じることはなくなった。

その安心しきった中でさらに油断しきっていたのがいけなかった。
だが今回には私ばかりでなく同居人も責めてほしい。


その日は休日で、先日同居人に露呈した両親の形見を持ち稽古に行く日でもなかった。
だから普段より少し遅く起床した。
寝起き特有のボーっとする頭と完全に開かない半開きの瞳。気を抜いたら再び布団に戻りそうだった。
そうなる前に身支度を整えよう。
まだ意識のあるうちに行動に移そうと部屋を出て洗面所へ向かう。


「...。」

「...。」


扉を開けたところで、直前に思考していたことが全部吹っ飛ぶことになる。

今、目が合っている、人物は、同居人と一致しない

同居人はどうした、どうしてここにいる、そもそもお前は誰なんだ。
回転しきれない頭ではすぐにキャパオーバーになる。
何食わぬ顔で歯磨きをしながらこちらを見るその人に何一つ問うことが出来ないまま、意識を手放した。




*****




「そろそろ明かそうとは思っていたが、まさか目の前で倒れるとは思ってもなかった。」


正面のソファに座る大人はそう言った。
いつかの話し合いのような構図になっているが、その時と違うのは大人が我が物顔でソファに座り長い足を組んでいること。

次に目を覚ましたら、洗面所の前で意識を飛ばした部屋着のままリビングのソファにいた。
男は起き上がるのを確認すると、正面のソファに座った。

そして最初に戻る。

正直、同居人も秘密を持っているとは察していた。
でもそれはきっと全ての大人に共通することだと思ってた。
大人は何かと物事を隠したがる。
少なくとも今まで会ったことある大人はみんなそうだった。両親だって、そう。
それは生活を円滑に進めるためだったり、明かすまでの過程が複雑だったり、都合よく話をあわせるためだったり、要は大人の都合。
子どもは聞いちゃいけない、追いかけちゃいけない、無条件で信じなければいけない、そう考え実行してきた。


「君は責任感が強く、他の同年代の子どもと違って一人で出来ることが多い。故に周りから頼られることがほとんど。君自身、君以上に何かを出来る人を知らないから頼ることも出来ずあのアパートで一人暮らし。先日も話したがこれからはもっと俺に頼ってもらって構わない。俺に出来ることは協力しよう。」

「だが頼るにしても無条件で信じろ、というのは難しいだろう。だから君が俺を信頼しようと歩み寄ってくれたように、俺も君に近づこうと考えた。」

「これは俺にも君にも大きなリスクだ。それは君が"それ"を明かしたリスクと同じ。これで俺も君も50:50、対等の条件になったわけだ。そこで相談なんだが"それ"を知った上で、俺は君に助けて欲しいと思う。もちろん君が助けを求めるなら命に代えても君を守る。」

「もう無条件で与えられる"それ"ばかりを追う必要はない。君が思う信頼に答えるために行動するのも、悪くないと思うが、どうだろうか。」


この大人は無条件で信じなくていいと言った。
リスクを負ってまで、信じてくれると言った。

信頼の責任は思っていた以上に重い。
だが無条件で押し付けられていた信用より、ずっと、嬉しかった。

だから信じよう。この大人を。
信じてくれると言った、それに値するものをくれた。
成し遂げる力はある、だがそのために一人になる必要なない、真に必要としてくれた人のために、


"私"は生きようと決意した。


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