甲板に出たら白い熊が二匹、取っ組み合いをしていた。
あれは人間がよく知る殴り合いではない。手も足も出てはいるがそれには鋭い爪が光っていた。
しかも不幸なことに両者共に実践が始まれば真っ先に前に出たがるような単細胞だ。

このまま放っておけばさらに激化して、本当の意味で手に負えないことになる。
野生の本能というやつだ。きっとどちらかが動かなくなるまで続くだろう。

こうなった時の対処法はすでに知っている。

あの白い熊二匹より強いやつがくればいい。

二匹取っ組み合う音がひどい騒音になっている今なら勝手にやってくるだろう。


「おいお前らこれで何度目だ、船が沈む」


噂をすればなんとやら。この船最強の男のお出ましだ。

その声にいち早く反応したのは白い熊の小さいほうだった。


「ロー!」


小さい白い熊の動きがピタリと止まった。
その瞳は遠くから見てもわかるぐらいには輝いていた。
これが今の今までもう片方の白い熊と取っ組み合いをしていた子なのだと信じられるであろうか。

だがそんな悠長なことも言っていられなかった。

この船最強の男の登場で戦意を喪失させたのは小さいほうだけだったのだ。
もう片方の白い熊の瞳は捕食者そのもの。

そんな白い熊のワンパンが、小さいほうの顔面にクリティカルヒット、してしまった。

大きさの差から力の差も歴然。小さいほうの白い熊は抵抗もできず体が吹っ飛んだ。

その白い熊熊が吹っ飛んだ先には、

体の白が映える青い海が広がっていた。

気付いたときにはすでに体が動いていた。
届かないとわかっていて海の上の白い熊に手を伸ばしていた。


「シャンブルズ」


この船最強の男の声が聞こえた。

次の瞬間、海に落ちていたのは自分だった。

船のほうで誰かが落ちる鈍い音がしたのはほぼ同時だった。

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