それに気付いたのは地球に来て間もなくのことだ。
最初は私のセンサーが間違っている、と言い聞かせた。
だが深く考えるたびに肯定しざるをえなくなる。
だから今は考えない。
メモリーから完全消去したお陰で滅多なことがなければ思い出さない、のだが

 「大丈夫かい?」

今回はそれを再び引き起こさなければならないようだ。

今私のカメラアイに映る世界には彼女、名前がいる。
だが少ない時間の中で得た彼女の印象とは大きく異なっていた。
巨大な通路の壁に体を預け、その体に訪れているであろう痛みに耐え、カメラアイはちかちかと忙しない
よく見れば彼女をそうさせている原因は右肩にあるようだ。
関節部が小さく火花を立てている。

一回り小さい彼女は私に気付いて顔を上げた。
カメラアイの忙しさは止まないまま。

 「あ、大丈夫です...。...いつもなので、」

そう言って無理に笑って見せた。
明らかに苦しそうにしている彼女を本来はすぐに軍医のところに連れていきたいところだが話によると軍医は不在、今は応急処置程度の技術しかないようだ
どうしたものかと考えた結果、彼女をよく知る者の元に連れて行こうという結論に至った。
私の勝手な判断よりも何倍も頼りになる。

歩けるか、と音声を出そうとしたが苦しそうにしている彼女を歩かせるのかと考えたらスパークが痛んだ
だから私は反応を伺わないまま、彼女を抱きあげた
一回り小さい彼女を抱きあげることは容易だった。
だが冷静は私とは対照的に彼女は相当焦っているようだ。
ブレインサーキットの回転する音が通常より早い。
落ち着かずにカメラアイを忙しなく動かしている。

 「心配するな。総司令官の元に行って判断を仰ぐだけだ」

そう言えば少し落ち着いたのか、焦るような動きは減った。
歩みだせば流れゆく通路を眺めていた。
そんな彼女が急に口を開く

 「ベクタープライム、さん」

 「なんだい、名前」

 「...私たち、どこかで会ったことあります、か?」

  (嗚呼、君はどうして...)

 「私は旅をしていたからね。どこかの惑星ですれ違っていたかもしれないな」

それに気付いたのは地球に来て間もなくのことだ。
最初は私のセンサーが間違っている、と言い聞かせた。
だが深く考えるたびに肯定しざるをえなくなる。
だから今は考えない。
メモリーから完全消去したお陰で滅多なことがなければ思い出さない、のだが

 「もうすぐ司令室だ。」

以後はもうすこし考え直さなければならないようだ。


三日月が笑う
君がどんな姿になっても、私は君のことを"知っている"


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