「おい名前おとなしく口開けろー」
「...あー」
言われた通りその口を開けた。そこに躊躇なく突っ込まれる指。もちろん、そういう雰囲気じゃないことはわかってる。
その証拠に指を突っ込んだ方であるクロスヘアーズは普段上げられているゴーグルを下ろしていた。その光景を"戦っている"時にしか見ないのを知っている。
だからこそ異様に見えてしまう。あの行為の意味を知りたくてケイドはその様子を凝視した。
「あれは"定期検査"だ」
「...検査ってことは、名前は病気か何かなのか?」
「そうだな...。...人間でいう"心の病"に近い」
すると近くにいたオプティマスがそれを教えてくれた。
そこで知ったのは"名前が病気である"こと。
正直気付かなかった。
消極的ではあるが芯のある、そこいらの男なんかよりもよっぽど頼りになるような子。
ただ周りの仲間たちより感情の突起が少なくて、稀に意思の疎通が取れないだけだ。
「前まではラチェットが診ていたのだが、この状況下じゃそれも叶わない。」
「ああ、それはわかるが、あいつに任せておいていいのか?」
素直な感想を口にした。
見るからに"好きなのは戦うことです"な奴に任せるより"自称発明家"の方がいいのではないかと。
ケイド自身、見てて何か起きやしないか不安で仕方ないからでもある。
「任せるしかないんだ。彼女の病状を一番理解しているのは彼だから。」
「...。」
「ラチェットが診ていた、と言っても本当はクロスヘアーズの言う名前の症状にラチェットがワクチンを処方していただけなのだ。」
「...じゃあそのワクチンがない今は悪化しないようにあいつが診てる、ってわけか」
視線を戻せば検診が終わった様子だった。
二人が向き合って他愛もない会話を繰り返す普段の見慣れた光景。
確かに感情の突起の少ない名前だが、クロスヘアーズと話しているときは少しだけ嬉しそうにしている。それが先入観からくるものなのか否かはわからないが、少なくともケイドにはそう見えた。
「というよりも元に戻ったと言ったほうが正しいだろうか。」
「...それ、どういうことだ?」
「ラチェットの受け売りだが、名前の病はワクチンがなくても時間を掛ければ治るそうだ。我々からしても気の遠くなるような長い時間を掛ければな。」
「...。...は?」
「クロスヘアーズはわかっていていやっているのだ。それをみたラチェットが少しでも力になれれば、と手を添えただけだそうだ。」
ケイドは驚愕した。
あの見るからに"好きなのは戦うことです"な奴が、事あるごとに銃を手に辺りにクレーターを作るような奴が、そんなに気が長かったことに。
だが同時に察した。
短気を起こさないない最大の理由は名前にあるということに。
彼等が地球にくるまでに何があったのかは知らない。きっとその機会がこなければ一生知ることはないだろう。
だが、それらを知らなくても見ればわかった。
「名前、やっぱ楽しそうだな」
感情の突起の少ない彼女が少しだけ笑っていた。