名前はクロスヘアーズの所謂"女"だった。
事あるごとに所構わず絡みにくる"男"とは対照的に"女"はいつも消極的に振る舞う。そんな二人がよくもまあ本当に長い時間その関係が続くものだ、と周りにはよく笑われたが、それはやはり"女"が"男"に惚れていて"男"もそれをわかっている。信頼しあっているからだろう。
地球という環境に慣れ出した頃、彼は言った。
「お前たちを見てると人間の恋事情と被る。」
ドリフトが。
言われた当人たちは呆気に取られているが、ハウンドはそれを聞いて吹き出した。
「確かにな!誰が上手いこと言えって言ったよ!」
そして盛大に笑う。もう当人たちがいることなんてお構いなしだ。
許すまじとクロスヘアーズが大変な剣幕で立ち上がる。
「どこが被るんだよどこが!あんな貧弱野郎共とどこが!!」
「全部だな」
「おいおい全部ってなんだよ!言うならもっと具体的にしろっての!」
もうその両手には武器を持ち、ドリフトに歩みを向けている。対するドリフトも手には剣を持ち迎え撃つ構え。
最早蚊帳の外に追い出された当人たちの片割れ名前はクロスヘアーズの行動の荒さに呆気にとられていた。
「あれだ、名前、ああいう短気起こすやつはいつどこで別の"女"作るかわからねえから気いつけろよ。」
「ねえよ!!絶対ねえ!!」
ドリフトを相手にしながらハウンドにも突っかかる、忙しい奴だ。
だがそれが聞こえてるのか聞こえてないのか名前の目は少しだけ遠くを見ていた。心なしか瞳の青の輝きがいつもより少ない気がしたが、誰も気にかけないような変化。
「...もし、そうなら...、クロスヘアーズの好きにさせてあげたいから、私が、我慢するから、大丈夫...。」
「だからねえって言ってんだろうが!!!」
ドリフトの攻撃を銃身ではじき、空いた胴に一発足蹴りをくらわすと彼は彼女に駆け寄った。本当に忙しい奴。
名前の肩を掴み、半ば無理矢理正面を向かせた。
「...いいか、俺は俺に惚れてるお前が好きだし、俺がお前から離れる時はお前が先に死んだ時だけだ。何度も言ってるだろうがよ。」
「...うん、知ってる...」
「じゃあいいかげん分かれよな。お前は俺の。俺はお前の。それだけだ。」
クロスヘアーズの、あんな一途な輝きを見ることは少ない。輝かせることはあっても狩猟的な輝きだ。
その一連の流れを傍観していたハウンドは今度こそ大きな排気をした。
「どっちに転んでも惚気じゃねえか。」
まったくそのとおりだ。