その後騒ぎは他の獄卒を集めてしまいこのままもっと大きくなれば我らが鬼こと上司が介入しかねないところまでいっていた。
このままじゃまずいと誰もが思い、まず場所を移した。
大々的に聞かれるとそれこそ収集がつかない事態になりそうなので、誰も入ってこれない空間がいいと佐疫が提案した。
その結果、"お兄さん"と慕われてはいるが基本的には自他ともに厳しいと評判の谷裂の部屋で落ち着いた。

結局の所、祈梨の右目は"盗られた"のだ。


「じゃあこの子が祈梨の右目を持ってるってことでいいんだね?」

「...うん」

「この子は誰?」

「...友達」

「友達...?祈梨が生きていたときの?」

「多分...」


佐疫の問いに曖昧に答えると部屋の主谷裂が祈梨を睨みつけた。
すると祈梨は肩をびくつかせ近くにいた平腹に縋りつく。
谷裂こわーい!なんて平腹は至極楽しそうに言うが、谷裂にしてみれば煽られているように見えて仕方ない。きっとこの事実に平腹自身気付くことはないだろうと知っていても。


「名前、覚えてない...。でも昔仲良くしてくれてたのは...覚えてる...」


谷裂の睨みが効いたのか、祈梨はぽつぽつと話しだす。

獄卒になって、だんだんと生前の記憶が薄れてきているのだ。
そのスピードには個人差があり、薄れる順番も様々。彼女の"その部分"だけ記憶が残っているのもそのせい。


「最初は、平腹と一緒に行ったときだったんだよ?」

「俺ぇ?」

「ほら、平腹どっか行っちゃったとき...」

「...は?ちげーし!祈梨が迷子になったんじゃん!!」


「煩い!さっさと進めんか!」


谷裂が沸点突破したのを目の当たりにした二人は一瞬にして黙り込んだ。
祈梨は縋っていた平腹から離れ、少し居心地悪そうに座り直す。変に誤魔化そうとしても拘束される時間が長くなるだけで、この人たちは事実を知るまで開放なんてしてくれないだろう。この"お兄さん"なんか特に。


「平腹と一緒に怪異探しに行ったときだよね。少し前の話になるけど、その時に会ったの?」


佐疫はようやく落ち着いた彼女に写真を指さし問う。
祈梨はゆっくりと頷いた。


「なんとなく、懐かしくてね...たくさんお話したの...。」


薄れる記憶の中になんとなく見える苦業。その正体が一体何なのか思い出せない。だがもう一人で悩む必要がないとわかったから、今ここですべて吐き出そうと思った。

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