「これはなんだ」
「亡者!」
聞くだけ無駄だったと誰もが後悔した。
一方の祈梨はその紙切れを見た途端急に落ち着きを無くした。現に色の違う自分の瞳をきょろきょろと泳がせている。"お兄さん"は目敏くそれを見つけると、すぐに近づきその頭を鷲掴みにして無理矢理自分の方を向かせた。
「...知っているな」
改めて面と向かうとその瞳の違いは明らかだった。
祈梨もそれを自覚し始めたのか必死に目を逸らそうとする。彼女は色が違う瞳を気にして背けているのではなく、その瞳目掛けて襲いかかってくる敵が恐いのだ。つまるところ最初に襲いかかった田噛が事態の究明を難航させているわけだ。
「...知らない。」
「嘘をつくな。」
「...嘘、じゃない」
「じゃあ捕まえに行っても問題ないよね」
佐疫が笑顔で言い放った。
「平腹が亡者って言ってたしね。亡者なら放っておいちゃいけないでしょ?」
それを聞くと祈梨はまた慌てだす。
これは黒だと確信した谷裂は鷲掴みにしていた頭から手を離した。
ここまで気の長い谷裂も珍しいと呑気に木舌は考えていると、ずっと自分に隠れていた彼女が見上げてきた。
「...木舌ぁ」
「...ごめんね。今回ばかりは助けてあげられそうにないや」
答えると捨てられた子犬のように悄気る。
そしてようやく隠し通せないと気付いた彼女は木舌の影から出てきたのだった。