大会を目前に控えたある日だった。
昼休み、いつにも増して不機嫌な表情をした木手がなまえの手を引いたのだ。唯ならぬ雰囲気に手を引かれるなまえだけでなくその現場を目撃した人すべてが固唾を飲んだ。
同じ教室の、一際賑わっている集団、その中心人物を見ると、木手は止まった。


「君ですか。うちの部員を拘束しているのは。」


低い声が響くと今さっきまでの賑わいがピタリと止まった。木手が一人を文字通り睨みつけると、彼はへらりと笑った。


「やめてもらえませんか、地区大会で終わるような君の部活と違ってうちは地方大会の前なんですから」


だがその笑みは一瞬にして凍りついた。それに影響されるように周囲の温度も少し下がったような気がした。
木手の言うとおり、彼が部長として所属する部活は先日の地区大会で健闘するも敗退したばかり。つまり、いま彼は目標を無くし部活という時間を持て余しているのだ。


「暇なんでしょ?それならうちのみょうじさんに仕事押し付けないで自分でしたらどうなんです?君には彼女がいつも暇しているように見えるんですか?」


そう言って木手がどこからともなく取りだし、彼の机に投げたのは一冊の冊子。表には"学級日誌"と書いてある。

最近、何かとなまえが部活に遅れてくる。理由もわからないから、とりあえず小手調べに知念を向かわせたが何がどうしてそうなったのか部活に来たのは知念だけだった。彼女に説き伏せられたのだろう。
仕方なしに木手自ら彼女を追ってみると、彼女が学級日誌を押し付けられている場面に遭遇した。
つまるところなまえはお人好しなのだ。ここで釘を刺さなければ悪循環する。勝つためにはなんだってするのが木手だった。


「それともみょうじさんの気を引きたいんですか?それなら、」


やるなら徹底的に、彼を再起不能になるまで、完膚なきまでに、叩き伏せる。
部活の穴も埋まる上、余計な虫がつかないように予防線が張れる。一石二鳥だ。


「うちの知念くん、どうにかしてからにしなさいよ」


その台詞は幼馴染がどれほど彼女にぞっこんなのか理解していればしているほど致命傷になることを、我らが部長様木手永四郎は知っていた。

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