朝練が終わると普段なら木手と時間が許す限りまで、部室に籠りいろんなことを話す。ほとんどが取るに足らないくだらない話だが楽しくてすぐに始業のチャイムが聞こえてくる。
だが今日は違った。なまえが誰よりも早く部室を出て行ったのだ。真面目ではあるが付き合いが悪いわけではない、だからどうしてだろうとクラスメイト兼幼馴染の知念に聞いてみた。
「今日は日直だって言ってたさ」
ああ、なるほど。と納得した平子場だったが、新たな疑問に突き当たった。
「...そんな早く行かなくてもいいんじゃねーんぬか?」
今年で3年生。過去幾度と日直をこなしてきたはずなのに何故今更行動を改める必要がある。いっとき"そういう時期"があった前科があるから少し不安になってきた。
だがその思いとは裏腹に知念は顔色を変えることなくラケットの入った鞄を背負った。
「大丈夫さ、凛」
「ぬぅがよ」
「担任に呼ばれてるだけさ」
それもそれで心配だが、きっと日直のとき特有の先生たちの使いっ走りだろう。
ああ、だったら大丈夫だろう。といらぬ心配をしたと胸を撫で下ろしたが、その時には既に知念は扉を開け外に出ようとしていた。教室に向かおうとしていたのだ。
「やー、もう行くぬか」
「...べつに」
曖昧に濁すとそのまま部室を後にした。
知念もこれで誤魔化しきれるなんて思っていない。別に知られてもいいし、みんなわかってるだろうから。それを踏まえた上で察してもらいたいのだ。
自分は彼女が心配だから追うんではなく、望んでいるから追いかけているのだと。