結局永四郎くんはHRの前にきっちり着席していた。何がどうしてああなったのか理由が知りたいけどきっと永四郎くんは教えてくれない。3年で学んだ。
そんな彼に口止めされているであろう寛くんもそう。普段なら態度なり言葉なりで読み取れるのに永四郎くんが絡むとそれが無効になる。
同じクラスの慧くんにはきっと話すんだろうな。なんだかんだであの二人は仲がいいから。
一緒に教室の前まで来てた凛くんは永四郎くんたちの一連の行動を見てて何かに気付いみたいだけど結局は教えてくれないまま。
一緒にいた裕次郎くんには耳打ちしていたのに。彼も彼でそれを聞いてああ、と納得したような声を出していた。

知らないのは、私だけ。

別にそれを知ったからと言ってどうなるわけでもない。彼等もそれを意識しているわけではないことはわかっている。私が言葉にしなければいいだけのことなのだ。それだけなのにそれがすごく悲しい。
そう、沖縄に越してきたばかりの頃のあの気持ち。
お母さんのいない家で、好きでもない波の音を背に、毎日眠りにつく。
そのたびに、これからもずっとこうなのだ、なにもかわらないのだ、と根拠のない気持ちに囚われる。

そのとき初めて"独り"なのだと自覚した。

意識すると急に鼻の奥が痛くなった。ポタリと準備した教科書の表紙にしみができる。気付いて制服の袖で顔をこするが痛いのはなくならない。今度は目頭が痛くなってきた。

私はみんなが思ってるほど利口ではないし、強いわけでもない。いつだって昔の記憶に怯えながら生きてる弱い人間だ。

きっとそれを知ってるのは寛くんだけだ。あとにもさきにも、彼だけなんだと思う。

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