「何してるんですかあなた達」
部室の扉を開けた木手が見たのは、部活動をしていない部員の姿だった。
「鍋パーティーしてるんばあよ」
箸を持った平子場がそういう。
机の上に乗ったガスコンロとぐつぐつと煮立った鍋。もう食べごろのようだ。その鍋の周りを囲むのは先ほどの平子場をはじめとした甲斐に田仁志に知念になまえの見慣れた顔ぶれ。
木手はとりあえずため息をついた。
「なんで部室で鍋パーティーなんかしてるんです。」
「腹ぁ減ったから」
「だからって鍋したらそっちの方が高いでしょ。購買行きなさいよ。というかどこから資金出てるんですか。」
「わったーぬ財布から」
田仁志と甲斐が順に答えると木手はまたため息をついた。今度はもっと大きいやつ。
それを尻目に知念の持つ箸が鍋にのびた。葉野菜を取り皿とり口に運ぶ。
「寛!抜け駆けは許さねーらん!」
「大してカンパしてない凛に言われたくねえさあ」
知念の行動を皮切りにそこは戦場と化した。もう彼らに何を言っても聞かないだろうと確信した木手は三度目ため息をついた。
するとなまえが取り皿と箸を一組にして木手に差し出した。
「永四郎くんも食べてよ。味には自信あるから」
「...いいんですか?後から言われても払いませんよ?」
「永四郎くんは特別だよ。いつも頑張ってくれてるから!」
そう言って木手の前に皿と箸を差し出す。
木手は少し戸惑いもしたが、それを受け取りなまえの隣に腰を下ろした。
「ほら、田仁志くんは野菜食べなさい。甲斐くんもですよ。平子場くんは自重しなさい、大して払ってないんでしょ。...ほらそこ、知念くんは逆に肉食べなさい。何他人事みたいな顔してるんですかみょうじさん、あなたもですよ。部活中倒れられたら困るんですからね。」
「永四郎はわんより払ってねー!」
「おや、これは日頃君たちの世話をしている俺に対しての感謝の気持ちだと受け取っていたんですが?」
「私そこまでいってない!!」
恐怖政治の頂点もとい鍋奉行の登場で戦況はさらに悪化。
どこまでも世話の焼ける部員たちに木手はさらにもうひとつため息をついた。が、満更でもなさそうな顔をしていたのを知る者はいない。