「えー、なまえじゅんに泳げないんばー?」
「う、うん...」
いつだったか海に繰り出した時、なまえが知念にしがみつき離れなかった。知念も知念でしがみつく彼女の頭に手なんて置いている。まんざら嫌でもなさそうだ。というか満足している。
海に来たのだから遊んで帰りたい甲斐は不服そうに頬を膨らませた。
「いいよ、裕次郎くんたちだけで行ってきて。私あっちの方にいるから」
そう言って知念にしがみつきながら指差したのは波打ち際の正反対、一番遠いところ。
無理にでも海に引き込もうと考えていたがそんな遠くの方を差されたら彼女は本当に海に入りたくないんだと甲斐でも感じとれた。
「ぬぅで泳げないんば?」
それにはきっと何かあるに違いない、と甲斐の意識は海で遊ぶことからなまえへの疑問へとすり替わっていた。
「え、えっとね、沖縄来る前にプールで溺れたことがあってね...。それから溜まってる水とか怖いの...」
「水がまぶやぁ?じゃあ風呂はどうするんやっさー」
その瞬間今までなまえたちよりも後ろにいた木手が突然甲斐の前に現れた。驚く暇も与えることなく甲斐は顔面を鷲掴みにされ、そのまま足元の砂浜に文字道理沈められた。
甲斐は動かない。その現場を目の前で見ていた一同は唖然。一方木手は涼しい顔をしている。
「まったく、なんでそういうデリカシーのないこと聞くんですか」
それが木手なりの彼女の愛し方なのだと理解するには、もう少し時間がかかりそうだ。