ジェミニマンのレーザーとサーチマンのライフルが同時にヒットする。それが決定打になった。
グレイガは爆発を起こしている。彼等と並びファルザーと戦っていたカーネルとアイリスちゃんもどうやら勝つことが出来たようだ。
これで、これで、全部終わったんだ。でも、なんだろう、この胸騒ぎ、なんでこんなに安心できないんだろう。
途端グレイガが雄たけびを上げた。
「っ、ライカ!早くプラグアイトして!!」
PETから唸り声が聞こえてくる。知っている、この声は、ジェミニマンの声だ。
その姿はいつもと何も変わらないのに、肩を上下させて苦しんでいるのに、聞こえるのはあの唸り声。
「電脳獣がジェミニマンの中に戻りおったわ!!電脳獣が生きている限り、ワシの野望はついえはせん!!」
ワイリーの高笑いが響き渡る。
そんな、今まで必死に戦ったのに、そんな最後って、ないよ。
私は彼の名前を叫んだ。何度も叫んでも答えてはくれない。さっきの戦いで電脳獣に対抗できる体力を使いきっている。
「...。...なまえちゃん、ジェミニマンは私たちが助けるわ」
「なっ、何言ってるの!アイリスちゃんもカーネルも体力は残ってないはずだから、お願いだから逃げて!!」
『逃げるわけにはいかない。確かに我々の体力は限界だが、ジェミニマンを救う方法がたったひとつだけある...』
たったひとつ、さっきバレルさんが言っていた言葉が過る。それしかない、だめだそんなことしたら、二人とも、
「私と兄さんが一つに戻って完全体になれば、ジェミニマンから電脳獣を引き離せるかもしれない」
「何を馬鹿な!お前たちが一つになればワシの仕込んだプログラムが発動して大爆発だぞ!無駄死にするつもりか?!」
ワイリーの言うとおりだ。その方法でジェミニマンを助けられたとしても、カーネルとアイリスちゃんは助からない。どんな方法を使っても、それだけは絶対に覆らない。
「いいえ、決してムダではないわ」
アイリスちゃんの凛とした声が聞こえた。その声は今までのアイリスちゃんみたいに恥ずかしがっている、とかそういうものを一切含んでいない、自身に満ち溢れた声。
「なまえちゃんは、ライカくんと一緒に素晴らしい未来を作りだしてくれるはず...」
憎しみと破壊からは何も生まれない。アイリスちゃんはたくさん見てきたんだ。そうすることで誰かが悲しんだり、新たな憎しみを生むことも彼女は知っている。
だからそんな未来がこないことを願ってる。アイリスちゃんはすごく優しい子だ。
『戦闘に明けくれ、敵をデリートすることだけを考えてきた俺が世界を救うために消える...。このような最後を迎えることになるとはな。...なまえ、バレルに伝えておいてくれ』
"私は電脳獣と共に消える。しかしこれは運命などではなく私の意志だ"
カーネルは一度たりともこちらを見ようとはしなかった。やっぱり彼は強い、それとも決意がこれ以上揺らがないようにしていたのかもしれない。やっぱりカーネルはアイリスちゃんのお兄さんだ、彼も彼女と似てとても優しいナビになったのだ。
アイリスちゃんが、PETの向こうから私を見ている。何か、言いたそうな顔をして、
「なまえちゃん...私...」
それだけ言ってまたジェミニマンを見据えてしまう。
『...アイリス』
「...ううん、いいの。私ネットナビだから...」
どこか諦めたように笑うアイリスちゃん。何が伝えたかったの、アイリスちゃん。私にはわからない。
でも、私なら、同じ立場になった私なら、どんな言葉を欲するだろうか。考えた、これが正解かなんて、わからないけど、私は口を開く。
「アイリスちゃんがネットナビでも、アイリスちゃんは私の友達だよ!」
「!」
「私だけじゃない、ライカもコジローくんも明日太くんも!それに熱斗くんたちだって、アイリスちゃんの友達なんだよ!」
「...。」
「だから、だからアイリスちゃんは、もう一人じゃないんだよっ」
アイリスちゃんが少し顔を俯けた。そしてすぐに
「はじめましょう、兄さん」
『ああ、』
アイリスちゃんとカーネルの体が光り始める。そして、一つに重なった。
輝きを増し、光がジェミニマンを貫いた。
光に貫かれたジェミニマンは力なく倒れる。光は姿を変え、カーネルの姿をしているように見えた。
その手はグレイガの中枢であろうデータの喉元を鷲掴み、ジェミニマンから完全に切り離したのだ。
『ジェミニマンをプラグアウトさせろ!!』
カーネルに言われすぐさまプラグアウトすると、気を失ってはいるがジェミニマンがPETに帰ってきた。よかった、これでジェミニマンから電脳獣もいなくなり、もう勝手に暴れる心配もない。
だが、カーネルたちがプラグアウトする気配が見られない。そのままでは本当に爆発を起こしてしまう。
「...まさか、カーネルその爆発で電脳獣にとどめを...!」
『なまえ、ライカ、バレル、そしてワイリー博士...さらばだ!!!』
PET画面が明転する。光が止んだその画面にはもう誰もいなかった。