電脳獣の力が、ジェミニマンから抜けた。
どういうことだ、あのブラックボックスからどうやって抜けだしたというんだ。だが今は詮索する時ではない。
二体揃った電脳獣が共に雄たけびを上げた。現実世界で起きている出来事のはずなのに、ナビである私たちにも響いてくる。頭が割れそうだ。
「お前たちとの戦いもこれで終わりじゃ!!」
ワイリーがライカ様と##name1#様を標的にする。
まずい、現実世界の二人の前には電脳獣が存在している。俺たちならどうにか出来るかもしれないが、生身の人間が勝負をしていい相手ではない。
「アイリスよ、電脳獣のチカラを示すのだ!!まずは手始めに奴らと裏切り者のバレルを吹き飛ばしてやれい!!」
だが、ワイリーの指示にもかかわらず操作をしているアイリスは応じない。一体、なにが起きているんだ。
「...なまえちゃん、今まで黙っててごめんなさい...」
「あ、アイリスちゃんっ」
ファルザーのコピーロイドから少女の声がする。意識を取り戻したアイリスが、コピーロイドを通して、なまえ様に何かを伝えようとしているんだ。
「なまえちゃん、はやく電脳獣を...いつまでも抑えてはおけない...」
『なまえ!こっちの電脳獣は私たちにまかせろ!』
カーネルだ。二人がファルザーを止めようと力を貸してくれるのだ。だとしたら俺とジェミニマンが止めるべきは今までジェミニマンの中にいたグレイガの方。やることが決まったのならば、一気に電脳獣を放出して気を失っているジェミニマンをなんとしてでも起こさなければならない。
『アイリス、何故戻ってきた?』
「...兄さんに人を傷つけてほしくなかったから。けど、もうその心配もないみたいね」
彼等はなまえ様に出会い変わった。目の前のことをただ必死になっていた貴方の行動が彼等を変えた、これは誇ってもいいことだと思う。だがなまえ様は大したことじゃないと苦笑いするんだろう。
「フン!人を傷つけてほしくないだと?アメロッパ軍で軍事兵器を操っていたお前が何を言うか!」
「私が軍事兵器の中から見てきた人間たちはみんな傷つけあってばかりいた。私はそれが当たり前だと思っていた。だけどワイリー博士の研究所から逃げ出した時、初めて戦争をしていない街をみたの。」
中でも学校はとても新鮮で、私と同じぐらいの子供たちがたくさんいてとっても楽しそうだった。学校に興味を持った私は才葉学園のネットワークに潜りこんで他の子どもたちと一緒に授業を聞いたりしたわ。みんな本当に幸せそうだった...。そして気がついたの、これが人間の本当の姿だって。人が人を傷つけあうのは間違いなんだって。
「...だから、私、兄さんを止めようって決めたんだけど、ワイリー博士に捕まったらと思うと、怖くなって...」
だけどそんな時、才葉学園になまえちゃんがやってきて。なまえちゃんはどんな困難にも戦いを挑んだわ。でも、私見てしまったの、そんな時のなまえちゃんは手が震えていたの。本当は怖い、でもみんなを助けるために頑張っていたわ。なまえちゃんは私と似てるって、だったら私にもできるはず。私も頑張ろうって...
「兄さん、私戦う!戦うのに、一人でいなきゃいけないなんて、そんな決まりはないわ。だから、一緒に電脳獣を、倒しましょう」
『アイリス...強くなったな』
彼等が決意したのだ。俺たちも戦わなくてはいけない。
だがその前に、まだ目を覚まさないジェミニマンをどうにかしなくてはいけない。いつかみたいに倒れるこいつの頭を蹴ってやった、今度は思い切り。
『ってぇ!!何するんだよ!』
『いつまでも寝てないで、俺たちも行くぞ。』
『...。...ああ。ファルザーはあいつ等がなんとかしてくれるからな』
『だから俺たちも負けてはいられないだろう?』
『俺はそれでいいんだけど、お前はそれでいいのか?』
今更何を聞く。ここに来る時点でこうなることはわかっていた。それに、
『使える手段を全部使ってこその軍事ナビなのだろう?』
電脳獣に乗っ取られたお前を止めに入った時点で俺は部外者ではなくなった。それに今更遠慮し合うような仲でもない。
ジェミニマンは目を丸くさせたがそれもそうか、と前を向き直した。
『行こう。電脳獣倒して、全部おしまいだ。』
ライカ様が俺を、なまえ様がジェミニマンをグレイガのコピーロイドにプラグインする。正真正銘、これが最後の戦いだ。