私たちの前に現れたのはアイリスちゃん。よかった彼女は無事だった。


「アイリスちゃん、助けにきたよ!!」


声を上げるが、アイリスちゃんはこちらを向く気配すら見せない。不安になり彼女の名前を呼び続けた。そうしたらバレルさんが口を開いた。


「無駄だ。彼女は今、オペレーティングモードに切り替わっている。今のアイリスにどれだけ呼びかけても聞こえはしない。」

「...バレルさん、それって、どういうこと...?」

「ワイリー博士は今から二十年ほど前にカーネルを完成させた。」


完成したばかりのカーネルは当時、現在でも最強と言ってもいい性能を持っていた。
最高峰のパワー、スピード、明晰な頭脳、あらゆる電子機器を操ることが出来るオペレーション能力、そして優しさ。
あらゆる要素を備えた完璧なナビだった。


「...だった?」

「俺が父親の死を知らされた日、ワイリー博士は俺のもとを訪れ、カーネルを取り上げた。数時間後、俺のもとに戻ってきたカーネルは、以前のカーネルではなかった。」

「...。」

「カーネルからは優しさをつかさどるプログラムが抜き取られ、敵を倒すためだけに存在する完全な戦闘ナビに変貌していた。」


そしてもう一つ、カーネルから抜きとられたプログラムがあった。あらゆる電子機器を操れるオペレーション能力だ。

でもそれがアイリスちゃんと何の関係があるのか、私にはわからない。だけどライカはもしかして、と顔色を変えていた。


「わからんのか?ワシはカーネルから抜きとったプログラムで一体のナビを作り上げたのじゃ。」


なんとなく、嫌な予感がした。背中に嫌な汗が伝ったような気がした。だってそれじゃあ、アイリスちゃんは"人"ではないということになってしまう。


「それがアイリスだ!!」


だがワイリーはそれを口にしてしまった。
アイリスちゃんは、ネットナビだった。そしてカーネルから抜きとられたプログラムで作られたということは、彼女はカーネルの妹。
だからだ。だからスカイタウンでアイリスちゃんを前にしたカーネルは攻撃をやめたんだ。


「...で、もアイリスちゃんは、現実世界に、いる...」

「...コピーロイドだ」


ライカの言葉でようやく理解できた。アイリスちゃんはカーネルの妹で、コピーロイドを使って私たちのことを助けてくれていたのだ。
コピーロイド、そうワイリーの後ろにいる大きなコピーロイド。電子機器を操れるアイリスちゃん。そして"二体"のコピーロイド。


「だ、だめ!アイリスちゃん!!」

「いでよ、電脳獣ファルザー!!」


コピーロイドが姿を変えていく。その姿は鳥を模している、そうだあれが電脳獣の本当の姿。
電脳獣、ファルザーの雄たけびが一体を震わせた。あんなものが現実世界で暴れまわったら、大変なことになる。
アイリスちゃんは、と慌てて視線を移すがそこにはもうコピーロイドしか残っていなかった。
あのコピーロイドは、学校に飾ってあったコピーロイドだ。だからアイリスちゃんはよく学校にいたんだ。

それよりもそこにコピーロイドしかないということはアイリスちゃんがあの大きなファルザーの中に入ってしまったということだろう。
止めなくちゃ、ライカと顔を見合わせたとき、バレルさんがファルザーに近づいていく。


「あの電脳獣は俺がやる。もう一度アイリスとカーネルを一つにすれば、カーネルが本来の力を取り戻せば、電脳獣を倒せるかもしれん」

「残念だが、その希望は捨てた方がいいぞ!!ワシがカーネルとアイリスを二つに分けたとき、再び一つになった場合、自動でデリートされるようにプログラムしてある!運よく戻れたとしてもそれは一瞬だけじゃ!」

「...一つに戻れなくても、アイリスを食い止めることは出来るかもしれん!」


そう言うとカーネルをファルザーのコピーロイドに送りこんだ。その直後、バレルさんがその場に倒れこんでしまった。倒れた彼から血が流れているのが、見えた。
普段見ないそれを目の当たりにして、急に怖くなった。いくらライカの手を握ってもそれは消えることない。

またファルザーが雄たけびを響かせる。


『ア、アァァァァァァァ!!』


今度はPETから悲痛の叫び声が聞こえた。急いで確認するといつかのようにジェミニマンがもがき苦しんでいる。こんなにも彼を苦しめる要因は一つ、彼の中の電脳獣だ。その電脳獣がファルザーに共鳴し、お互いを引き合っているのだ。
その様子を予想してたのか、ワイリーは笑い始めた。


「ククク、出てくるがいい!電脳獣グレイガよ!!」

『ガァァァァァァッ!!』


今までにないほど苦しみ叫ぶジェミニマン。その叫びが止み、PETから顔を離し前を見ると、そこには今までジェミニマンの中にいたはずの電脳獣、グレイガがファルザーと並び現実世界に現れていた。

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