扉をくぐればそこには今までみたコピーロイドとは比にならないような巨大なコピーロイドが二体並んでいた。たくさんのコードに繋がれたその二体は未だエネルギーを充電している最中のようだ。


「きたか、なまえ...」


そしてワイリー、なまえをこの一連の事態に巻き込んだ張本人だ。先にきていたバレルさんに目もくれず、なまえだけを見続ける。


「貴様がその男を連れてここにくることは想定内の出来事じゃ。」


一瞬俺の方を見た。だが本当に一瞬だ。
握っている手に少し力が入った。答えるように俺も握り返す。


「ここまではワシの計画通り。たった一つのイレギュラーを除いてな...」

「イレギュラー...?」

「...バレル。お前がそっちの側につくとは想定外じゃったわい...」

「...ワイリー博士、あなたから受けた恩は忘れていない。その証拠に今まであなたの下につき、WWWを率いてきた。」


ワイリーから受けた、恩だと。彼もなまえの先生のようにワイリーから恩を受けていた人だった。だがその恩があったから彼は今の今まで自分の意志を殺すように生きてきたのか、強い意志を持つ人をそれほどにさせる恩とは、なんなのか。


「ワイリー博士は、俺の育ての親だ。そして俺のナビ、カーネルを生み出したのもワイリー博士だ。」

「バレル、お前はその育ての親を裏切ろうとしておるのじゃぞ!!」


俺もなまえも目を丸くした。あのワイリーが、バレルさんの育ての親なんて。それにカーネルも彼の手によって作られた。信じ難いことばかりだ。


「嘘ではない。その昔、化学省を追われたワシはネットワーク社会に復讐を果たすべく一人ひっそりと準備を進めておった。しかしワシの計画に待ったをかけた男がおった...」


それが、当時アメロッパ軍で指揮官を務めていたバレルさんの父親。彼はワイリーをアメロッパ軍にスカウトし軍事ロボの開発を任せたのだ。
化学省を追われたワイリーを、彼は必要とした。その男のためにワイリーは計画を延期することになった。


「そして数年が経ったころある国で戦争が勃発し、男は戦場へ旅立った。その間ワシは男の一人息子、バレルの面倒をみることになった。...数年が経ち、ワシのもとに一通の手紙が届いた。男の死を知らせるものじゃった...」


友人を失った悲しみと怒りが再びワイリーの復讐心に火をつけてしまった。そして優しさを捨て、悪の科学者として社会への復讐を始める決意となったのだ。


「...しかし、その前にやっておくことがあった。バレルにワシの持つありとあらゆる軍事データを叩きこみ、バレルを父親並みの、いや父親以上の軍人に育て上げることがワシを必要としてくれた男への唯一の恩返しじゃった。」


今俺たちの前に立っているバレルさんはワイリーあってのこと、ということだ。
ワイリーがいなければバレルさんはここにはいなかった、軍人にもなっていなかった、俺たちのもで会っていなかった。そういうことなのだ。
この二人もその矛盾の中で生きてきたんだ。なまえと、俺たちと同じだったんだ。


「目を覚ませバレル!!そして、ワシと共に世界を、ネットワーク社会を恐怖と混乱に陥れるのじゃ!」

「...目を覚ますのはあなただ。初めてカーネルを俺にくれたとき、あなたの目には優しさの光があった」

「フン!優しさなどとうの昔に捨て去ったわ!!優しさなど、ワシの大いなる野望を達成するためにはまったく不要じゃからな!」


ワイリーの後ろに立つ巨大なコピーロイドから鈍い起動音が始まる。
今までの間に完全にエネルギーの充電が終わってしまったようだ。つまりそれは、ワイリーの言っている"作戦"の開始を意味していた。


「アイリス!!」


そうワイリーが呼んだ名は俺たちの大事な友人の名だった。そして現れた少女の姿も、間違いなくアイリスだった。

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