チロルの意を決した投身逃亡に六法と入道も続いた。結果的に奴らを逃がすことになってしまったが、今はそれより目の前の扉だ。
あの三人じゃ開けられなかった扉、この向こうには俺が持っていない方の電脳重がいる。それにワイリーも、アイリスも。
これだけの人数がいれば、電脳獣も止められるかもしれない。みんなその気になって意気込んだ。でもなまえだけは違った。


「...ここから先は、私とジェミニマンだけで行く」


彼等が足手まといになるからとかそういうわけではない。ただなまえはみんなが好きなのだ。
この扉の先にいる電脳獣が俺の中の電脳獣と接触したら何が起きるかわからない。これ以上の危険に彼等を晒したくないのだ。

俺だってみんなを危険に晒すのは本望じゃない。本当ならなまえにだって彼等と一緒に逃げてほしい。でもそれじゃ、俺だけじゃきっと電脳獣には勝てない。なまえもきっとわかってるから、一緒に来てくれるんだ。


「...だからみんなにはやってほしいことがあるの」

「やってほしいこと?」

「うん。セントラルタウンの人たちをなるべく遠くに非難させてほしい。」


電脳獣二体が接触し、暴れ出したら何が起きるかわからない。それに炎山のオフィシャル権限があれば出来ないことではないはずだ。これが、なまえの彼等に対する信頼なのかもしれない。
なまえの頼みごとにみんな頷いてパビリオンの外へ向かった。その背中を見送るなまえの手は、小さく震えていた。


『...本当に、これでよかったのか?』


怖くないわけはないだろう。
いくらみんなを危険に晒したくないと言っても結果的にこの街の存亡も絡んでいるわけだ。そんなプレッシャー今まで体感したこともないしこれからもしないものだと思っていた。
見送ることをやめ、扉に振り返った。


「うん。あれは本心だし、これ以上私のせいでみんなを困らせたくないから」

『でもあいつら、きっとそんなこと思ってないぞ』

「...そうだったらいいな。」


顔を俯けてしまう。ここからじゃ様子を窺うことはできない。


「でもやっぱり、一人はちょっと、寂しいかもしれない」




なまえの気付かないところから足音が聞こえてくる。最初は足早に、だんだん早く、最後には走って、こちらに向かってくる。
ああ、やっぱり、あいつだけはなまえを一人にするわけないって、信じていた。


「なまえ!!」


名前を呼ばれ反射的に振り返ったなまえを構うことなく抱きしめた。こんなことできるのは一人しかいない。もちろんあいつだ。


「..ら、ライカ...っ」

「あんなこと言って俺が納得するとでも思ったのか...!」

「でもっ、でも...!」

「確かにお前はすべての元凶だ。だがそれは仕組まれていたことであって、お前のせいじゃない!」

「...っ」

「あの時言っただろ?"今のお前はもう一人じゃないだろ"って」


覚えがある。なまえが初めてグリーンタウンに行ったとき、フードを被って俺たちの前に現れたライカがなまえに何か言っていた。俺には聞こえなかったが、なまえにはしっかり聞こえていた。そうか、だからなまえは正気を取り戻して裁判に臨むことができたんだ。


「...もっと頼ってもいいんだ。俺だって勝手に苦しむお前を見たくはないっ」

「ライカ...」

「でも、なまえが帰って来ないのは、もっと嫌なんだ...!」


ライカだって苦しんだ。WWWと組んでいるケイン市長が直接的になまえに害を与えないように見張っていたのに、それに反してなまえはいろんなことに巻き込まれて傷ついていく。あのフードをとってなまえを助けたかったに違いない。でもライカは軍人だ、任務を遂行するための軍人だ。それに反すれば軍にはいられないし、軍にいられなくなったらそれこそなまえといられなくなる。
だから、だから今、なまえが最大の困難に立ち向かう今は、力になりたい。今まで散々助けらえなかった分、今力になりたい。


「...。...本当はね、すごく怖いの...。だから、」

「ああ」

「だから、あのね...。...手、繋いでてほしい...離さないで、ほしいの...」

「ああ、繋いでやる。絶対離さないからな。」


なまえを離したその手でなまえの手をとった。今までみたいに助けあっていた手の取り方ではない、その行為は二人の決意の表れだ。
なまえも、ライカも、もう大丈夫だ。今も、これからも、この二人ならどんな困難だって乗り越えられるだろう。


「ようやく決心がついたようだな...」


後ろから別の誰かの声がした。二人は同時に振り返る。そこにいたのはバレル、だが既に手負いだ。重い足取りでこちらに近づいてくる。


「バレル、さん」

「俺も決心したさ。...ワイリーは俺が止める」


その目は俺の知っているバレルの目だ。強い意志を持った、強い大人の目。俺たちのことを何度も導いてくれた本物のバレルだ。
マッハ先生は彼のことを心配していたが、もう大丈夫。


「ついてくるなら好きにしろ。ただし、この扉をくぐると、もう後戻りはできんぞ」


今まで開かなかった扉のロックをいとも簡単に開けてしまった。振り返り俺たちを見、先に扉の奥に行ってしまう。
言われなくてもわかっているさ。


「...いくぞ、なまえ」

「...うん」


ライカとなまえも一緒に踏み出した。ついにこの時がきた。
これが最後の戦いだ。だが今の俺たちに怖いものはないはずだ。なあそうだろ、なまえ。

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -