休み時間、ウイルスバスティングで見せ場を作った俺は満足していた。目立てたし、何よりなまえにあんな態度とったコジローとかいう奴とそのナビを返り討ちにすることができたからだ。
あいつのナビが俺の実力が見たいとか言ってウイルスの入った箱の前に立たせたのが始まりだった。小学生が受ける授業なのだからせいぜいメットールだろうと踏んでいたのに、実際箱から出てきたのは才葉シティ特有のウイルスであるダルストだった。オペレートしているなまえも同じことを考えていたのだろう最初こそ動揺していたが任務じゃもっと強いウイルスを倒してきたのだ。俺たちに倒せないはずがなかった。
任務のことを知らないクラスのみんなはすごいすごいと俺たちをたてた。遠くの方でコジローのナビが俺を睨んでいたが俺はしてやったりの顔をしてあいつ等にとどめをさす。
始業のチャイムと共にマッハ先生が教室に入ってくる。が、彼は何かを抱えていた。
「...あれって」
『入り口に飾ってあった人形と同じだな』
そうだ。あれは先程なまえが気にしていた無機質な人形。飾ってあったものとは違うものらしいが、今回の授業ではどうやらそれを使うらしい。
話はこうだ。
あれの名称はコピーロイド。あれだけじゃ何の意味もないがあれにナビを送ることで姿を変えナビ其の物の姿になる。そしてその姿で現実世界を動き回れる。
いまいち実感がわかない。シャーロでも体験したことのない技術。どうやらこの街の技術発展の自己水準を引き上げる必要があるようだ。
同じ説明を聞いていたであろうなまえを見ると、その目を輝かせていた。彼女の両親も科学者だが、軍事兵器に軍事ナビといったものばかり作っていたのを彼女自身幾度も見ている。まあ俺もそんな彼女の両親に作られた軍事ナビなわけなんだが、棚にあげておこう。ともかくなまえにとっては未知との遭遇といっても過言ではない。ああいった類の物を作り上げる科学者がいたことをなまえも再確認できたはずだ。
「...ではなまえさん、君のナビを現実世界に招待してみるかい?」
「ぜ、是非!」
なまえが思い切り立ち上がり、パネル近くのコピーロイドに近づく。彼女の表情はさっきよりもずっと輝いていた。こういうところは年相応にみえて嬉しかったりする。
なんだかんだ言ったって俺だって嬉しいさ。ずっと一緒にいるのに一度だって触れたことのない彼女にようやっと触れられるのだ。柄にもなく緊張していた。
「ジェミニマン、いくよ...」
『...ああ。そこで待ってろよ、すぐに行ってやるからな』
「じゃあ、転送開始」
一瞬ホワイトアウトしたがすぐに復旧、徐々に安定してくる、データの塊の手が足が実態を帯びてくる、不思議な感覚だ、なまえがいう"ふわふわしている"とはこういうことなのだろうか、だんだん意識がはっきりとしていく、ゆっくり、ゆっくり、閉じていた瞼を持ち上げた
「...ど、どう?」
『...。...思ってたよりも小さいんだな』
「え...?」
『こうしてみるとなまえは小さいんだな』
俺はなまえを見降ろしていた。いつも俺がいるPETを両手で握って俺を見上げるなまえ。
まだ慣れないコピーロイド。ゆっくり手を伸ばして、未だ呆気にとられているなまえの頬に、触れた。ようやく触れられた。いつもPETの向こう側にいた俺が現実世界にいる絶対的証明。
...なんか変な気分だ。
きっと今の俺は気の抜けた変な顔してるに決まってる。これ以上それをなまえに見られるのは悔しい。...俺はなまえの前じゃかっこよくいたいんだ。
『...。』
「...ジェミニマン?」
『...。...くらえっ』
「?!」
誤魔化すようにその頬を引っ張った、勿論加減はしている。それでも彼女にとっては痛いらしく頬をつねる手を外そうと俺の手を握る。その手から伝わる微弱な熱にも喜びを感じられる。...いい加減満足した俺はその頬から手を離してやる。今まで俺につねられていた頬を片手で押えながらも彼女の目は輝いていた。
「やっぱり夢じゃない...!」
『ああ夢じゃない。...ようやく本物のなまえに会えて俺は満足だが、なまえは?』
「嬉しいよ!ジェミニマンがナビで本当によかった!」
俺は未だ満足感に浸っていた。
背後で黒い憎悪が渦巻いているのも知らないまま。