アンダーグラウンドの奥底に奴はいた。辺りには暴れたようなデータの破損があちらこちらにみられる。当の本人はというと、普段となんら変わらない姿、以前感じた妙な殺気は感じられない。つまり、
「ジェミニマンっ、電脳獣に勝ったんだね...!」
なまえ様がその姿を見て安心したように息を吐いた。
だが様子がおかしい。なんだこの重苦しい空気は。
奴がゆっくりとこちらに振り返った。その顔は電脳獣を抑え込んだ喜びではなく、そうすることで訪れるであろう未来への絶望、そして奴がたどり着いた結論を示していた。
『...なまえ、お願いだ。俺を...俺を、消してくれ!!』
咆哮が響き渡る。奴はまだ電脳獣に打ち勝てていなかった。
低い唸り声を発しながらこちらに近づいてくる。俺が銃口を向けると構うことなく一気に踏み込んできた。懐に奴の顔が見えると構えていたライフルを顔面に思い切りぶつけてやる。
痛みは感じるようで怯んだ隙を見て後ろに下がった。殴られたところを手で抑えてはいるが戦意を削ぐにはまだまだ足りない。
「サーチマン、躊躇しないで!」
PETの外からなまえ様が叫ぶ。
『あなたはそれでいいのですか?』
俺はもう一度聞き直した。
本当は違うはず、あなたはいつだって奴の帰還を望んでいた。
奴も同じだ、あなたのところに帰ることを望んでいる。いまだってそうだ。ただそれには電脳獣が邪魔している。
ならば排除すればいい。それによって奴が多少なりとも傷付いても構わない、俺は今"電脳獣"と戦っているんだ。
『俺は言いました。"引きずってでも連れてきます"と』
普段の奴からはかけ離れた獣のような瞳で俺を睨みつけてくる。こちらも本腰入れなければ消されるのはこちらだ。
『なまえ様、信じてください。ジェミニマンは絶対に帰ってきます。』
俺の任務は危険分子の監視、対象が狙われた際の実力行使、そして対象の一般教養育成。
つまるところ奴と共に行動し任務を遂行し奴に教えるのだ、軍事ナビはオペレーターの命令が第一だと。