ついにこと時がきた

6-1と書かれた教室の前でなまえの緊張はマックスだ。むしろ振りきれているのかもしれない。PETを両手で握りしめたままだ。心なしかその手が震えている。
扉一枚の向こう側からは中にいる、今日からなまえの同級生になるであろう子どもたちの声が聞こえてきた。それらが一喝、担任によって沈められる。ちなみにこの担任の名は麻波剛(まっはごう)、なまえに襲いかかろうとした警備ロボを止めそのスピーカーから俺たちを職員室に案内した張本人。俺の出番を奪った罪深い奴だ。


「それじゃあ入っておいで!新しいクラスメート!!」


扉越しにでもはっきり聞こえるぐらい大きな声。はっとして顔を上げた。滅多に着ることのない私服のポケットにPETを押しこんだ。震える指で扉に手をかける、そこで呼吸をひとつ、意を決したように思い切り扉を開けた。




一歩教室へ入った瞬間、この部屋にあるすべての視線が私に向けられているんだって理解せざるをえなかった。竦みそうな足を無理矢理動かして教師用のパネルの横に立つマッハ先生のもとまで歩いていく。
前を向けば視線が更に集まってくるような錯覚。扉の前での決意が揺るぎそうになる。もうひとつ呼吸をして、決心する。


「...あ、なまえです...。よろしくお願いします...」


たったそれだけの言葉を口にするだけでこんなになるものなのか。今更になって自分の心拍数の上がり具合に気付かされた。と、とりあえず第一目標は達成できたということでいいのだろうか。
一拍後、教室からは拍手があふれた。たったそれだけのことなのに奥の方から何かがあふれてくるような不思議な感覚。きっとこれが嬉しい、なんだな。


「なまえさんはシャーロという外国からニホンに勉強しにきたんだ!みんな仲良くするんだぞ!!」


はーい、と小学生特有の間の延びた返事の後、先生が私の席を教えてくれた。廊下側と反対側、窓側の一番後ろの席。その席の前には男の子がいる。少しだけそちらを見たらあからさまに逸らされた、ちょっと寂しい。


「アイツは新垣コジロー、ぶっきらぼうだが悪いやつじゃあない」


マッハ先生は彼を紹介すると私に席に着くように言った。
彼はコジローくんと言うらしい。今でこそあんな避けられ方だけれど、仲良くなれたらいいなって思いながらコジローくんの横を通って席につこうとしたときだった。


「...よ、よろしくねコジローくん」


今度はすごく睨まれた。咄嗟にあいさつに笑顔を張り付けてその場を乗り切った。こういうことが咄嗟に出来てしまうのは昔からだ。
席に着いたらポケットに入れっぱなしだったPETから物騒な物言いが聞こえてくる。


『...。...よし、あいつをぼっこぼこにして痛い目見せてやるからさっさとどこかにプラグインしろなまえ』


慌てて声の出るPETを服の上から抑えつけて前の席の彼に聞こえないように必死になっていた。
だいたいナビである彼は人間である彼に介入できるのと本当に思っているのだろうか。授業が始まるまでにこのナビをどうやった止められるだろうかと必死に悩んだ。

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