どこに連れていかれるんだろうと不安に思ったが、たどり着いたのは見慣れたおじさんの家。勝手に上がり、勝手に私の部屋に入り、パソコンからサーチマンを送り込んだ。
「頼んだぞ、サーチマン。」
『了解しました。』
その背中を見送るとライカは未だ泣き続ける私に向き直った。
「さてなまえ、今のうちにこの状況を整理しておこう。」
「...せ、整理...」
「そうだ。...いいか、お前は今非常に複雑な状況の真ん中に立っているんだ。」
電脳獣もといジェミニマンを狙うのは大きく分けて二つの集団。一つは現在バレルさんが率いていると思われるWWW、もう一つが市長さんを中心としたグループ。市長さんは元々WWWと二人三脚でやっていたけれど、最近になって仲違いしたらしく、市長さん独自の戦力を持つようになった。
「お前も会っただろう。ウラインターネットに拠点を持つ電脳獣信者たちのことだ。」
「...じゃあ、あのナビたちの言ってた"教祖様"っていうのは」
「市長のことだ。彼は相当電脳獣に執着があったみたいだな」
しかし信者たちは大した問題ではない。"教祖様"が捕まったよなれば自然と活動を辞めていくだろう。
問題は市長さんが持っていたもう一つのパイプ。市長さんはWWWから何人か人材を引き抜いたらしい。クロヒゲなんかもその一人、おそらく彼らは市長さんが捕まっても活動はやめない。
『ライカ様』
「...。...この下に奴がいるんだな」
サーチマンの眼下に広がる底の見えない大穴。一体この先にはどんな世界が広がっているのだろう。やっぱり地獄のようなところなのだろうか。私はそんなところにサーチマンを行かせようとしていると思うと気が重くなる。
『...なまえ様、大丈夫です』
「サーチマン、」
『引きずってでも連れてきます』
そう言ってライフルを構え直し、大穴へ一歩踏み入れる。足場を無くした体は急激な速度で穴の中へ吸い込まれていった。