「さて、昔話はここまでにしておこうか」
我に返る。背を向けた扉をガタガタと動かすが一向に開く気配がない。
こちらにゆっくりと迫ってくる市長さんとクロヒゲ、彼等から逃げる術が思いつかない。部屋を見渡すが使えそうなものは見当たらない、PETには彼もいない。
どうしたら、どうしたら、
ガタッ
今までびくともしなかった扉が突然開いた。押された扉にびっくりして何歩も下がってしまった。入ってきたのは市長さんのボディーガードであるフードの男。なんてこった、挟まれてしまった。
「おお、いいところにきたな。この子が勝手に私の部屋に入ってきたんだ。捕まえてキツイお仕置きをくわえてやってくれ」
「...それより市長、あなたのお隣にいるヒゲの男性はあなたのお知り合いですか?」
「そんなことはただのボディーガードのお前には関係ない」
「知り合いなんですね?」
「しつこいぞ、お前はただ雇い主の言うことを黙って聞いていればいいんだ」
「...だそうだ、炎山」
...え、いま"炎山"って言った、どうして、
再び扉が開いて、入ってきたのは本当に炎山くん。
「市長とWWWの関係を探る...それが俺の任務だ。」
炎山が入れと合図をするとコピーロイドが数体入ってくる。その姿はオフィシャルのナビ。形成が逆転して市長さんたちは戸惑いを見せる。正直私も今何が起きているのかよくわかっていない。
「...なにをするつもりだ」
「何をするだって?決まっているだろう」
フードをかぶった男の声色がかわる。今までの声は作っていたものなのだろうか、この声を私は知っていた。
「なまえを傷つけた奴らを痛い目にあわすのが、俺の任務だ!」
男はフードの付いたコートを脱ぎ去った。そしてそこに現れた人物に目を見開いた。
「...ら、ライカ...!」
あのフードをかぶって度々私の前に現れた男はライカだったのだ。というかどうしてライカがここにいるのか、なぜ炎山くんと一緒にいるのか、全く話が見えない。
「しまった...オフィシャルか!貴様、騙していたな!!」
「ケイン市長、そしてキャプテン・クロヒゲ、お前たちを逮捕する。」
炎山くんの合図でオフィシャルのナビたちが二人を一気に取り押さえた、二人は抵抗を見せたがコピーロイドにかなう訳もなくそのまま連れ出してしまう。
「なまえ、怪我はないな。奴に直接的なことはされていないな。」
「...ライカ...本当にライカ、なの...?」
「俺以外の誰に見えるんだ。」
「...ぅ、うぇ...ライカぁ...!」
ライカが、来てくれた。それだけで嬉しかった。今までフードをかぶって散々私のこと邪魔してきたのも、これ以上事態を深刻化させないための行為だったんだ。
「なっ、今は泣いてる場合じゃないだろ!」
「...わ...わかってる、けど...」
「ジェミニマンのところに行くぞ。泣き言はそのあといくらでも聞いてやるから。」
ライカが私の手を引いた。一体どこにいくつもりだろう。
その間も涙は止まらなかった。今までの行為は誰かの悪意ではなく、ライカの善意によるものだったことに安心したのだ。