昔、電脳世界が産声をあげてまだ間もなかったころ人々はまったく原因のわからないイレギュラーな事件に直面していた。
電脳世界におけるバグの大量発生、それが意志をもったかのように一つの場所に集まりだしいつのまにか巨大な塊となっていた。そのバグの集合体はなぜか、獣の姿をなしていた。
「...それが電脳獣の誕生」
「半分正解だ。バグによって自然発生したのは"グレイガ"だけだった」
暴れ回るグレイガに対し人々は様々な策をこうじたが何一つ有効な手を見いだせなかった。
誰もが絶望したその時、一人の優秀な科学者が立ち上がった。
その科学者はグレイガに対抗できるプログラムの開発に乗り出した。人々はその科学者にすがるしか術がなく、いつしか彼は"救世主"と呼ばれるようになった。
長い月日を経てついにそのプログラムは完成した。そのプログラムはグレイガに引けをとらないパワーを生み出すことができた。
しかし悲劇が起きた。
実際にグレイガと戦いだしたそのプログラムは戦いが激しくなっていくと何故か制御不能となり見境なく暴れるようになった。
「...ということは、そのプログラムが、」
「そのプログラムは"鳥"に似せて設計されていた。コードネームは"ファルザー"」
ファルザーを投入したことによって、インターネットの被害はより甚大になってしまった。そしてあの科学者に非難が集中した。
人々はかつて"救世主"と呼んだその科学者をまるで掌を返すように、今度は"悪魔"と呼ぶようになった。
その科学者は失意のどん底に落ち再び世に出ることはなかった。
「結果的にいえば、この"悪魔"と呼ばれた科学者がしたことは決して間違ってはいなかった。少なくとも私はそう思っている。」
ファルザーは制御不能になったとはいえ、グレイガを倒すというプログラムとしての本能は忘れていなかった。
グレイガとファルザーはいくどとなく激しい戦いを繰り広げた。そしていつしか戦いは睨み合いのこう着状態が続くようになった。
人々はチャンスだと思った。グレイガとファルザーが睨みあっているその場所ごと電脳世界の奥深くに隔離しようとした。
そしてそれが成功した。インターネットは平和を取り戻したのだ。
「...そう、だから私が電脳獣を持つべきなのだ。"悪魔"と呼ばれた科学者の子孫であるこの私が...」
「...!!」
「私の祖父は使いこなせなかったが、私は完璧に電脳獣を使いこなしてみせる!二体の電脳重を率いて私はこの世界をいずれ支配するだろう」
そして証明してやる。
私の祖父が、どれほど優秀な科学者だったのかということを!