ジェミニマンが獣のような唸り声を上げる。だがどこか苦しそう。ジェミニマンはまだ自我を手放さないで電脳獣と闘っているのだ。だったらまだ私の声が届くかもしれない。


「ジェミニマン!!目を覚まして!!」


彼は私の声で助かったのだと、あの時、電脳獣を取り込んだ後に言ってくれた。
だが唸り声は止まない。むしろだんだんはっきりとしてくる。彼の自我は電脳獣に完全に呑まれてしまったのか。


「...ジェミニマンっ、お願いだから...目を、覚ましてよ...!」


信じたくない。彼が私を置いてどこかに行ってしまうなんて、信じたくない。

獣の遠吠えが電脳世界に響き渡る。
PETをはさんでいても伝わってくる殺気。こんな殺気を彼は今まで露わにしたことない。これが本当の彼なのか、それとも電脳獣の本能なのか。
怖い、私の知らない彼が怖い。いつも私を助けてくれる彼を助けられない私は、彼の名を呼ぶことしかできない。


「ジェミニマンっ...」


変わり果てた彼を写すPETにぽたりと涙が落ちたとき、一筋の閃光が彼を貫いた。
急所を外したが、誰かが彼を攻撃した。攻撃を受けたジェミニマンはその場に倒れ込み動かなくなる。
だが攻撃したであろうナビは姿を現さない。


「...だ、だれ...!」


ガガガガガ...
突然PETのスピーカーから雑音が聞こえてくる。それと並行して画面に砂嵐が現れた。誰かがこのPETをジャックしたのだ。


『...なまえ、今の場合はデリートしてでもジェミニマンを止めるべきだった。お前の判断の甘さがナビとすべての電脳世界の住人の命を危険に晒したんだ。今のジェミニマンはそれだけ危険な存在だということを忘れるな。...今回は警告だ。次に同じことが起きれば、その時は、今のように外しはしない。』


一方的な通信のあと、PETは何事もなかったように正常に戻った。画面には目を覚まさない、傷を負ったジェミニマン。


「...判断の、甘さ、」


その甘さが誰かだけでなく、世界を危機に陥れるなんて、考えたこともなかった。
甘さを切り捨てることは軍人として当たり前だ。切り捨てることで大勢の人を救えるなら、尚更。たとえ自分という犠牲を孕んだとしても。
でも心のどこかで、それはいやだという私は、やっぱり軍人には向いてない。

やっぱり私にはだれも助けることなんてできないんだ。

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