ウラインターネットに足を踏み入れると独特の禍々しい空気を感じた。いつ来てもここの空気には慣れない。
とりあえずコジローのナビを探すため歩きまわってみるがやはり表のインターネットと近い場所にはいないようだ。嫌ではあるが、奥にまで足を進める必要がある。
少し進むと、表のインターネットでも見た形の石像が見えた。電脳獣の石像だ。あの話を聞いた時、伝説と聞いて心躍らせていたが、今じゃ思い出したくない現実になりつつある。なんたって俺の中に、いるんだもんな。
何気なしに見つけた石像だったが、その石像の前に倒れ込む見覚えのあるナビを見つけてすぐに駆け寄った。
『おい、生きてるか!』
『...あぁ、なんとかな...』
コジローのナビだ。すぐに声をかけて安否を確認するために肩をゆするとのろのろと起き上がった。どうやら一時的な気絶だったようだ。目立った傷も見当たらないし、まずは一安心だ。
『クッソー、俺としたことが油断しちまったぜ。俺をここまでさらってきたヤツらめ、次会ったら覚えていやがれってんだ!』
『それにしても、だれがこんな悪ガキナビを連れ去ったんだ...』
『誰が悪ガキだ!!』
本当に威勢がいい。軽く流して辺りを見回すが、石造以外にめぼしいものはない、犯人らしきナビも見当たらない。だったらさっさとこの空間から離脱しようとしたときだった。
『イケニエが逃げるぞ!!』
数体の柄の悪いナビがこちらにやってくる。病み上がりのコジローのナビをかばうように前に出ると、ナビたちは俺たちのことを囲んだ。
『白いナビ、そこで何をしている!』
『こいつらだ!俺をここまで連れてきたのは!』
『...なんなんだお前たちっ』
わけがわからない。イケニエだって、冗談じゃない。苛立ちに声を荒らげると予想もしないような答えるが帰ってきた。
『我等は電脳獣を崇める者!電脳獣こそ、この世界でもっとも強く、尊い存在!お前たちなど、電脳獣の食料にすぎない!』
電脳獣を、崇める、あんな誰かを悲しませることしかできない力を、崇めるのか、こいつらは、
痛覚の通っていないはずのブラックボックスに何かがチクリと刺さったような気がした。
『こいつら、電脳獣がジェミニマンの体の中にいるってことを知らねえみたいだな』
『馬鹿っ、余計なこと言うんじゃないっ!!』
ぽろっとこぼれたそれに焦ってコジローのナビの口を勢いよく塞いだ。よかった、あいつらには聞こえていなかったようだ。
『そうだ、お前たちを二体の電脳獣に捧げよう!』
『電脳獣よ!目覚めよ!!』
そういうとやつらはなにかの呪文を唱え出した。意味まではわからないが、電脳獣が関わっているのであれば、油断はできない。
だが、なんだこれは
なんだ、この感覚は
苦しい、立っているのもやっとだ
だが、すぐに体の力が抜けて、その場に倒れる
聞こえる、聞こえる、俺の中から、獣の唸り声が
だめだ、このままではまずい、
また、俺の知らないところで、俺が誰かを傷つける
『おいっ、はやく...プラグアウトしろ...!』
『何言ってんだよ!お前も一緒にこい!!』
『むりだから...い、いってん、だろ...!!』
だめだ、これ以上は、だめだ
近づくナビを、押しのけた
ようやっと、決心したのか、あいつが、姿を、けした
悪い顔したナビが、ごちゃごちゃいってる
でも、あの呪文は、はっきりと聞こえる
やめろ、やめてくれ、このままじゃ、またあいつが
あいつが泣いてしまうじゃないか