いくつかの扉を抜けてたどり着いたのは木の根っこだった。見たことないぐらい巨大な根っこだがきっとこれはあの審判の木の根っこだ。いくら木を機械にすると言っても根っこから切り離せば死んでしまう。だからこうやって木であり機会であるいい按配を保っているのだ。
「...ここ、登れば...」
『ああ、きっと審判の木のコントロールパネルだ』
上へと伸びる梯子を見上げる。これを登ればきっと審判の木のコントロールパネルがある、同時に裁判所の中に出るはず、それはつまり検事六法が立てこもる敵陣のど真ん中ということ。
危険なのは承知の上だ。でもここで怖気づいたらおじさんも街の住民も誰として助けられない。なまえは梯子に手をかけ、ゆっくりと登り始めた。
登りきれば思った通り六法の後ろ姿が見えた。それと数体のお仕置きロボット、守りは固い。やはりここから俺が審判の木を止めるしか方法はないみたいだ。
「検事さん!」
「...やあ、なまえちゃんそんなところにいたのか」
六法の姿をみつけたなまえが彼を呼んでしまう。未だに信じられていないのか表情は暗い。
一方の六法はにこにこと最早何を考えているのかわからない笑みでこちらを見つめる。そして審判の木に近づいて柵の前で止まった。
「一体なにをする気だい?」
「審判の木を止めるの!」
「...とめる?確かに君の目の前にあるコントロールパネルから、審判の木に直接アクセスすることは可能だ。...でもね、なまえちゃん、やめておいた方がいい。」
なまえに迷いはない。今それが出来るのは自分だけだと確信している。だがその意思をくじくように六法はなまえを諭すように話しだす。
「その中には僕のナビ、ジャッジマンがいる。それにね、今日はもう一体お客さんが来てるんだ」
つまり今審判の木には今現在二体のナビがいるということ。そのナビがどのくらいの強さなのかは知らないが、ここでそいつらを倒さなくちゃ何も解決しない。怖じ気づいてはいられないのだ。
「...私、わからないんです。裁判であんなにかっこよかった検事さんなのに、正義感の塊みたいだったのに、」
確かに迷いはない、だが戸惑いはある。あの善人の塊みたいな男がどうしてこんなことをしているのか、それを理解するにはなまえはあまりにも視野が狭すぎた。
「正義か...そんなものはとうの昔に捨ててしまったよ。」
「なんで、なんで捨てちゃったの...?」
「そりゃ、僕だって昔は、"悪い奴を残さず牢屋にいれてやる!"、そう思ってた...でもね...いくら、捕まえても捕まえても、犯罪者ってのは一向に減らないんだよ」
彼は気付いてしまったのだ。人間と言う生き物がこの世界に、地球上に存在する限り悪は決してなくならないこと。完璧なルールがあったとしても、なくなるわけがない。正義の反対はまた正義、俺たちが悪だと思っているものは、その人からしたら正義なのだから。
「あの"組織"に出会って僕は生まれ変わったんだ。完璧に正しい社会がつくれないのなら、いっそのこと一度壊してやろうと思ってね!」
六法にはそれが理解できなかったのだ。だからそんな暴挙に出るのだ。今自分が行おうとしていることが、自分の恨むべき悪だと気付かないまま。
「わからない...。...全然わからない!そんなの!」
「それは君が子どもだからだよ。大人になったらきっとわかるさ」
「そんな大人になりたくない!誰かを犠牲にしなきゃいけない大人になんか...!」
確かに彼女の視野は狭い、だがその狭い視野でいろんなものを見てきた。なにかしたって、なにも得られない、負の中を彷徨って、ようやく見つけた大事なものを持ってるなまえなら大丈夫。
『だったら絶対止めよう。この木も、あの無茶苦茶な大人も!』
「うん!」
『いくぞ、なまえ!』
「プラグイン!ジェミニマン.EXE、トランスミッション!!」
だから俺たちが証明するんだ。勝ったのが正義じゃない、正義が勝つことを。