俺が一番恐れていた事態が起きてしまった。
気落ちしたなまえは裁判所前の広場のベンチに座って俯いたまま。どうしてやることもできず沈黙する。

なまえにとって"両親"とは"孤独"の代名詞。今日あった出来事を話すにも家には世話をするだけのロボット、彼は何を話したって答えてはくれない、育児のプログラムを有してなかった。
聞いてくれないことを話す必要はない、話す必要がないなら出来事を無理に起こす必要はない、そうやって誰かから離れて一人になって、寂しいのに、誰にもいう事ができなくて、悪循環する。

だがもしなまえの両親が俺の開発に夢中になっていなかったら、もっと充実したというより本来の幼少期を彼女は過ごせたのだろうか。だがそれでは俺と彼女が出会えない、今の軍という居場所もない。サーチにもライカにも、出会えない。矛盾だらけのなまえの人生、本人が割り切るにはまだ時間を要するのだ。


「...だから先に進むなと言ったんだ」


この声はさっきのフード男の声。なまえがゆっくりと顔を上げると目の前に立ってた。見下ろされているのにも関わらず下から見ても顔が判別できない。なんて都合のいいフードなんだ。


「なまえ、お前は今あらゆる問題の元凶だ。...その様子だとそのことにまだ気が付いていないようだな」

「...。」

「この状況は"仕組まれて"いるんだ。命が惜しいならこれ以上余計な真似はしないことだな。...そこのナビもだ。」

『な、んだよ急に...!そもそも"仕組まれて"いるったって、誰が、なんのために!』

「お前が危険すぎるからだ。もしこれ以上問題を大きくするようなら、俺がお前をデリートすることになる。」

『誰がお前に消されるかっ!!』

「ならば大人しくしていることだな。」


なんなんだこの男は。いちいち人の癇に障ることばっかり言って。いまいちわからないような言い回しばっかりで、俺にはまったく理解できない。言いたい放題言って男は分厚いコートを翻して去って行こうとする。だがその足は止まる。なんだまだ用があるのか、フード男はこちらを振り返り、何かを口にした。ここからじゃ聞こえないぎりぎりの声だった。


「...!」


それが聞こえたのはなまえだけだった。今まで死んだ魚の目をしてたのに、急に生気を取り戻したのだ。男はそれだけで何もせずどこかへ言ってしまう。
なに言われたんだ、って聞こうとしたらいいタイミングでメールの着信。もうすぐ裁判が開かれる時刻だという知らせ。そのことをなまえに知らせるとうんと返事を返して立ち上がった。

さっきまで気落ちしたなまえはもうどこにもいなかった。

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