裁判所の建物に入って一つ大きな息を吐いた。あのフードをかぶった彼は、一体なんだったのだろう。


『なまえ大丈夫か?』

「...うん、大丈夫だけど」


知らない人のはずだ。なのに恐れとか、恐怖を感じることはなかった。あのときは知らない人に急に声をかけられて焦っていただけ。だが今はそれを気にはしてられない。ここに来た目的は彼に会うためじゃなくて、裁判の証人をしにきたのだ。少し周りを見回すと少し先に見たことのある後ろ姿があった。


「館長さん!」

「ああ、なまえさん!今日はわざわざすみません」


やっぱりそうだ、館長さんだ。その館長さんの隣には見知らぬ人が立っていた。そんな目で見ていたのがばれてしまったのか、館長さんが丁寧に教えてくれた。


「ああ、紹介します。この方はこのたびの当水族館の事件で、検事を担当されている六法さんです。」


六法(ろっぽう)さん。分厚い本を小脇に抱えているとても優しそうな表情をしたお兄さん、そんな印象だ。初めて会うので小さく頭を下げる。ついつい手が上がりそうになったのは内緒だ。


「今日の裁判で証人になってくれるっていうのはキミですね。はじめまして、六法です。」

「なまえです。今日はよろしくお願いします。」

「なまえちゃんか...いい名前だね」

「え、あ、そ、そうですか...?」

「検事なんて仕事をしてるとね、名前を聞いただけでその人が善人なのか悪人なのか、なんとなくわかっちゃうもんなんだ。もちろんキミは善人...どうかな?」

「...そんなこと、初めて言われたんで、ちょっと恥ずかしいです...」


本国にいたときにそんなことを言われたことはない。ライカだってそんなこというような性格してないし、なんだか照れくさい。私は周りからちゃんといい人として見られてたってわかってちょっと嬉しかったりもするが。


「キミのご両親はとてもいい名前を付けたと思うよ」


胸の中が一気に冷え切った。背中には嫌な汗が流れている気もする。六法さんにとっては何気ない一言だったのかもしれないが、その一言で私の中には寂しかった幼少期が走馬燈のように流れる。大して話した記憶もない、顔もろくに覚えていない、彼等はどんな気持ちで私にこの名前をくれたんだろう。


「お話は尽きないようですけど、そろそろ今日の裁判の打ち合わせを...」

「あっ、そうでしたねすみません」


どうやら館長さんと六法さんはこれから打ち合わせがあるみたいだ。話を聞く限りじゃ私にはわからないことばかり、いなくても大丈夫なようだ。


「...あの、私この街きたの初めてで、もう少し見て回ってきてもいいですか?」


これは抜けだすチャンスとばかりに提案をしてみたら、二人は快く頷いてくれた。ついでに裁判所の内の見学も六法さんにお勧めされた、なんでもすごいシステムがあるそうで。とりあえず時間になったらPETに連絡してくれるそうなので、それまでは自由時間。私は上手く笑って裁判所を飛び出した。昔から笑うのは慣れてる。

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