セントラルエリアに入った途端、明らかに今までの空気と違った。心なしか空が赤い、システムが異常を起こした時の色に似ている。
コジローのナビがいるであろうショーの会場はこのエリアの奥、以前なまえと話していた"電脳獣"の銅像が置いてある場所だ。ここから少し遠いが、急がなくてはいかない。走っているとネットポリスのものらしいナビが何体も倒れていた。一体何があったのか、なぜネットポリスがこんな状況になってしまったのか、コジローのナビは大丈夫なのか、疑問しか浮かばないがショーの会場まで行けば答えがわかると思い一心に走った。

奥に行くにつれて揺れが激しくなる。インターネット世界が揺れるなんて相当大きなデータが動いているんだろうと思った。思っただけだったのに、なんだ、なんだこれは。あれは伝説の生き物ではなかったのか。


『こ、これは...』

「まさか、これが石像の、電脳獣なの...?」


確かに俺たちの目の前にはオオカミの姿をしたばかでかい電脳獣がいる。信じ難いがあいつから感じるパワーは凄まじい。気を抜いたら押しつぶされそうだ。
勝手に足が震えだす。目の前の強大な敵を前にして俺は恐怖しているのだ。だがここで逃げれば誰も助けられない、なまえがここまできた勇気を無駄にしてしまう、なにより、超絶的に格好悪い。

試しにレーザー砲を何発が撃った。当たりはしたがダメージは見られない。これじゃチップを送られたとしてもダメージを与えられるかわからない。どうすればいい、どうすればあいつを倒せる、なまえを守れる。


『...。...なまえ』

「な、なに...ジェミニマン」


倒せないなら、止める方法を考えればいいじゃないか。もともと軍事プログラムだからそういうことにはとことん疎い。


『俺が軍で嫌われてる理由知ってるよな』


開発当初の容量では追いつけない機能を圧縮したブラックボックス、未知の領域が俺の体の中には存在する。圧縮された中身は言わば小宇宙、俺もそこにどんな機能が眠っているかわからない。そんないつなにをしでかすかわからない俺は"現代"じゃ邪魔者なのだ。


「し、知ってるけど...今は関係ない...」

『関係あるんだよ』


小宇宙と称すんだから中には莫大な容量があるはずだ。それだけの容量があればあいつを、目の前の電脳獣を閉じ込めることだってできるかもしれない。


『ブラックボックスにあいつを閉じ込める』

「え...何言って...」

『あいつのパワーは凄まじいがまだ不安定な状態だ。閉じ込めるチャンスは今しかない!』

「だ、だめ!そんなことしたらジェミニが...!!」


PETの向こうでなまえが泣いてるのがわかる。ああ、俺って愛されてるんだなって実感できる。本当にお前のナビでよかった、お前の両親の研究材料のままだったらこんなこと絶対思わなかった。本当にありがとう。大丈夫だって。俺がもし自我を失っても、消滅しても、まだライカにサーチがいる。それに今じゃお前には友達がいるじゃないか。コジローに明日太についでに熱斗とか炎山とかもっとたくさん。


『...なあ、泣くなよ』

「ジェミニマン...?」

『俺が泣かせたみたいで、格好悪いだろ...』


俺はいつだってお前の前でいい格好したいんだ。昔も、今も。
一歩、また一歩電脳獣に近づく。なまえの止める声が聞こえるが振り返らない。迷いはない。ようやく俺はこのわけのわからない力でなまえを助けることが出来る。こう思えるのは最初も最後もなまえだけだ。ありがとうなまえ愛してる

ブラックボックスを開けた。周囲に歪みが生じる。俺は電脳獣のダウンロードを開始した。

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