ダイブマンとの戦いを終えて顔を上げたらさっきまでいたクロヒゲがいなくなっていた。嫌な汗が背中を流れる。もしかして別の企みがあるのかもしれない、私はコジローくんの安否を確認しに急いでペンギンの檻に向かった。
「な、なんだお前!...うわぁ!!」
今の声はコジローくんのものだ。もしかしてクロヒゲがコジローくんになにかしでかしたのか。私は階段を駆け上る。一番上で待っていたのはクロヒゲに人質にとられたコジローくんの姿だった。
「コジローくん!」
「す、すまねぇ、ドジふんじまった...」
コジローくんが声を出すとクロヒゲが黙ってろと言わんばかりにコジローくんの手を強くひいた。痛みに強く目をつむるコジローくん。
「小娘、動くんじゃねえ!こいつがどうなってもいいのか?!」
これ以上彼を危険に晒さないためにはどうすればいいのか必死に考えた、しかし焦って頭に血が上った状態ではそれも叶わない。状況は悪くなる一方。
「いいか小娘!もう一度水槽と檻を開放するんだ!早く!」
「い、いやだ...!」
「お前に拒否する権利はねえ!そもそもお前がワシのショーをぶち壊したのが悪いんじゃねえか!このあとこの街の水道施設を乗っ取り、街全体の水の供給をストップさせるっていうショーの筋書きが台無しじゃねえか!!」
「なっ、そんなの止めるに決まってるじゃない...!!」
「うるせえ!ワシはな、失敗するわけにはいかんのだ!ワシはこのショーのために"組織"から力を借りたんだ!なのにこの有り様だと"組織"から罰を受けちまうんだよ!いいから小娘、ワシの言うことをきけ!」
組織?罰?一体何のことなのだろう。だがこの状況、彼の言うことを聞くしかないのだろうか。コジローくんを助けるために先程のように大勢の人を危険に晒すことが、正しい選択だとはいいきれない。
...ライカなら、サーチマンなら、きっとこの状況を打破する案を持っていただろう。彼等ははれっきとした軍人だ。大切な友達一人助けられないような私だから、中途半端だから、本国が追い出したがってるんだ。
コロコロコロコロ...
ボールが転がってくる。見覚えがある、あれはコピーロイドに入ったジェミニマンがクラゲだらけのプールから取ってきてくれたボール。ゾーちゃんが遊んでいたボールだった。どこからきたのかと顔を上げると、ゾーちゃんに乗ったギンジローとその仲間のペンギンたちがいた。ゾーちゃんは転がったボールを追いかけるようにこちらに向かってくる。正確には、ボールの一番近くに立っているクロヒゲに...
「げええ!!」
ドーーン!
ゾーちゃんの突進が見事に決まりクロヒゲは倒れ気を失ってしまった。直前に逃げ出したコジローくんと私たちは唖然としている。
ギンジローはピエピエと可愛らしい声を出して私たちのもとまでやってくる。褒めてほしいのだろうか。
「もしかして...俺を助けようとして...」
答えるようにギンジローが頷いたような気がした。コジローくんはそんなギンジローの勇気に涙ぐんでいるようにみえたが、今は黙っておいてあげよう。