あのあとコジローくんを引っ張って水族館を隅から隅まで見て回った。生れてはじめてくる水族館は未知の世界でいつまでいても飽きない。途中でショーが始まったから見に行った。そこではアザラシがボールで遊んでいたりお姉さんがイルカにのってプールを泳いでいたり、すごく楽しかった。更にお姉さんに指名されてイルカに乗せてもらえた。スイスイ泳ぐイルカに乗るのは気持ちよかった。

ショーが終わるとコジローくんは帰ると言いだした。じゃあギンジローに会いに行かなくちゃ、っていったらすぐに帰るとそっぽを向いてしまった。どうあってもギンジローに会いたくないらしい。


『きっとギンジローに会ったら別れずらくなるから、とか考えてるんだろ。じゃあコジローの言うとおりすぐに帰ろうぜ』


と止める様子のないジェミニマン。
仕方ないと思いながらギンジローと館長さんに会うことなくリニアバスの駅まで来てしまった。本当にいいのって聞いたらしつこいな!って怒られてしまった。そのまま足早に駅に入ろうとしたコジローくんだが、

後ろから悲鳴が聞こえたきた。


どうしたのかと駅からそちらを覗き込むと広場の池に先程までみなかった魚の陰がみえた。さらに別の方からも悲鳴が聞こえたので見てみると先程水族館で見た大きな背びれが水面からはみ出している。あの背びれはもしかしなくてもサメではないのだろうか。


「どうしたんだろう急に...」

「...ペンギン大丈夫かな?」

「コジローくん?」

「...俺ちょっと様子見てくる!」


慌てて走りだしたコジローくんは水族館の方へ向かった。そんなコジローくんを放っておけるはずがない。私も彼の後を追って水族館へ向かって走り出す。

水族館に戻ると中は大変なことになっていた。水槽の中の魚がすべて見当たらないばかりではなく水辺にすむ動物たちも檻の外に逃げ出していた。コジローくんの姿が見当たらないと奥に進むと彼はペンギンたちがいる檻の中にいた。だがその檻にはワニが入りこんでいたのだ。檻の中のペンギンを守ろうとコジローはワニに向かって必死にデッキブラシを振って追い払おうとしている。がワニはゆっくりとコジローに近づいていく。


「コジローくん!そんな無茶しないで早く逃げてよ!!」

「バカヤロー!!俺が無茶しなかったら、誰がこのペンギンたちを守るっていうんだよ!!」


早くしないとコジローくんが危ない。なんとかしなくちゃと辺りを見回していると


「おーーい!!」


誰かが呼んでいる。声のする方へ行くとそこにはワニと睨み合って動けない館長さんがいた。館長さんに聞けばどうしてこうなったのかわかるかもしれないと聞いてみると、どうやら艦内の水槽や檻が何者かによって開けられてしまったのだという。
元に戻すにはメインコンピュータを正常に戻し、更にそのコンピュータから"エサの時間"を知らせるベルを大音量で流すのだと。音を聞けば動物たちは檻や水槽に戻るように調教されているそうだ。


「と、とにかくメインコンピュータをなんとかすればいいんだよね!」

『そうだな。急ごう、コジローも館長も危ないぞ!』

「うん...!」


二人のためにも早くなんとかしなければならない。私たちは関係者口に入ってメインコンピュータを探しまわった。
道なりに進むと先程ショーをしていたステージにたどり着いた。ステージの先には扉が見える。きっとあの先にメインコンピュータがあるはずだ。だが扉の前には大きな体をしたアザラシ、ゾウアザラシのゾーちゃんがいる。ゾーちゃんにどいてもらうにもどうやって退いてもらえばいいのか、時間がないから私は焦っていた。


『落ち着けなまえ!ショーの時、なんて言ってた?ゾウアザラシのゾーちゃんは...』

「三度のエサよりボール遊びが大好き!」


とはいってもボールなんてどこにあるのだろうか。辺りを見回していると、プールの底に何かが揺らいでいた。色鮮やかな球体に見えるそれはまさしくショーの時にゾーちゃんが遊んでいたボールだ。
でもあのボールをどうやって取りに行けばいいのだろうか。プールには無数のクラゲが揺れている。あのクラゲには毒があるのだと水族館を見て回っている時にジェミニマンが言っていた。こんな深いプールで足をクラゲに刺されたらステージに戻ってくる前におぼれてしまうかもしれない。


『とにかく探そう!あのクラゲに刺されないで水に潜る方法を...!』


そんなこと言われたって...!
でもさがさなくちゃいけない。そうでないとメインコンピュータにたどり着けないし、コジローくんも館長さんも助けられない。私は水族館の外にその方法を探そうと入り口に向かった。

入り口には見覚えのある人影が見えた。あれは、今朝助けた女の子だ。どうしてこんなところにいるのだろう。


「...。」

「...あ、待って!」


女の子は私を見ると一人で外に出て行ってしまった。追って私も外に出るとそこに女の子はいなかった。やっぱり今の水族館が怖くて逃げちゃったのだろう。仕方ない、と水族館に戻ろうとしたとき、ジェミニマンが声を上げた。


『なまえ上見ろ!』


言われるがまま上を見て私は驚いた。クジラの形をした水族館、そのクジラの頭に女の子がいたのだ。どうやってそこまで上ったのか、というよりそこで何をしているのか、聞きたいことがいっぱいあってうまく言葉が出てこない。そんな私を知ってか知らずか女の子はある方向を指さしていた。
そこになにかあるのか。今度こそ聞こうと口を開いた時、バチャンと橋の下で何かがはねた。反射的にそちらを向くとピラニアがはねた。
今度こそ女の子に聞こうと再び上を向くと、女の子の姿は既にそこにはなかった。


「え、ど、どこにいったの...?」


辺りを見回しても何もない。謎だらけの女の子。とにかく彼女は私に何かを伝えようとしていた。とにかく彼女が指さした方に何かあるかもしれないとそちらに行ってみた。


「...!ジェミニマン、あれ!」


彼女が指さした方向、そこにあったのはこの場には不釣り合いなものだった。だがこれがこそがクラゲに刺されないで潜る方法だ。


『ああ、これならいける!なまえ転送してくれ!』


私はそれにPETを向けた。この体験をするのは二度目になる。目の前に現れたのはジェミニマンそのもの。彼は迷いなく私を抱き上げて水族館に向かって走り出す。彼が走った方が私よりも早いから私はされるがまま。
もしかしたらあの女の子はこうなるように誘導してくれてのかもしれない。だが今はそれを気にしている余裕はない。これでコジローくんと館長さんを助けられるかもしれない。ジェミニマンの走る早さが少し上がった。

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