目を見開き、勢いよく立ち上がった。
何がどうなったのかわからなくなった頭のまま辺りを見回すと驚いた顔をして俺を見るジョーにフランソワーズ、そしてイワン。
ここでようやく理解することができた。
ああ、俺は帰ってきたんだと。
同時にどうしようもない不安に駆られた。
なまえは、どうなったんだ。記憶が飛んでいてあの後どうなったのか思い出せない。
フランソワーズの腕の中にいるイワンを見やる。この赤ん坊が全部知っているはず、というよりこいつしか知らないだろう。


「アルベルト、なまえは...」

「わからん。俺もそれを聞きたい。」

「でも、イワン寝てしまったの。」


ジョーは逸る気持ちを抑え俺に問う。が何度も言うようだが俺も知らないのだ。だがフランソワーズは眉を下げ答える。もうイワンには何も聞けないのだと。
二人の様子から察するになまえと博士はまだ治療室にいるのだろう。
状況は"心象世界"に行く前となんら変わっていなかった。

落胆した。
なまえを助けることが出来なかった事実より、何も変わらない現実に、落胆した。
俺はソファに座り直して頭を垂れた。

ジョーもフランソワーズもなまえの"心象世界"で何があったのか聞き出そうとはしなかった。
二人ともなまえが孤独な子だと知っているから。
逆に聞いてくれた方がよかったのかもしれない。そうすれば俺の気も二人の気も紛れただろう。
だが話したとして、二人がどんな反応を見せるか不安にも思った。なまえはジェットの気の利かない、何気ない一言にも傷付く弱い子だ。

なまえの様子が気になって仕方ない。
といっても治療室に入れるわけじゃない。だが動いかないのも落ち着かない。
治療室の前までなら、行けるだろう。と俺は項垂れるのをやめて立ち上がった。それを見た二人が俺を心配そうに見てたから出来るだけ平常心を装い笑う。


「動いてないと落ち着かなくてな。」


一言残しリビングの扉を開けて廊下に出た。

そのときだった。

家の中が騒がしくなった。俺が意識を飛ばす前、この家にいたのは俺になまえにジョーにフランソワーズにイワンに博士だけだった。知らない間に誰か帰ってきたにだろうか。こんなに騒音をたてて迷惑をかけるのはあいつだけ、と思いフランソワーズに聞いた。


「誰か帰ってきたのか?」

「...いいえ、誰も帰ってきてないし誰も外には出てないわ。」


もっともなまえが心配で誰も外に出れなかっただろう。

じゃあこの騒音は誰がたてている。心なしか音が大きくなっているようにも聞こえる。
その音がジョーとフランソワーズにも聞こえたのか二人とも立ち上がり並んで廊下を覗き込む。が、もちろん何もない。

騒音は俺の思い過ごしではなくだんだん大きくなっていく。こちらに近付いてくるようにも聞こえる。
身構える二人を見て俺も切り替えた。
だがその騒音に紛れていた声をフランソワーズが最初に気付いた。


「...。...博士だわ」


博士なら治療室にいたはずだ。その博士が外にいるということはなまえになんらか変化があったのだろうか。
それが幸になるか不幸になるか、俺は一人で焦っていた。


「待つんだ!もう大丈夫なのはわかったが、精密検査がまだじゃ!!」


焦っている博士の声が聞こえた。それと騒音がだんだん足音に変化していった、二人分の足音だ、間違いない。
一つは今声が聞こえた博士のもの。フランソワーズは誰も帰ってきていないと言った。ならもう一つの足音は、

不安が一瞬にして消え去った。きっと今の俺の顔をジェット当たりに見られたら笑われるだろうが、いない奴のことを気にする余裕もないからそれもすぐに消えた。

目の前の廊下の角からこちらに曲がってきたのは、紛れもなくなまえだった。

声を発するよりも先に体が動いた。なまえもこちらに気付いて短い廊下を走って近付いてくる。


「なまえっ」


手を伸ばした。その手をなまえが、掴む。腕を思い切り引き、俺はなまえを抱きしめた。

俺はようやくその手を掴むことができた。

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