眠りから覚める感覚に似ていた。最初はぼーっとしていた意識も徐々に覚醒し始める。そして次に目を開けるのだ。


「...っ」


だがそこ広がる世界は見慣れた自室ではなかった。
夜より深い闇を少ない街灯が照らしているような場所、それが第一印象だ。
そうだ、俺は今なまえの"心象世界"に来ている。そこで俺の意識は完全に覚醒する。

俺はまず無意識に足元を確認した。夢のように宙に浮いている錯覚はない。俺の目にも足はしっかりとガラス板のような床についているように見えた。
それから自分の手を見る。なまえの手を掴むことができなかったこの手は、きっと俺が望めば武器になるだろう。つまり違和感はない。至って正常。
最後に俺がいるこの場所を確認しようと上を見上げた。


「なっ、」


言葉にならないような声を上げた。そして息を飲んだ。
はるか頭上に広がるガラス板の向こうに見えたのは"泥"。


(そう、あれは"泥"。この"心象世界"の大部分をあれが占めているんだ。)


イワンの声がすると横を見やればそこにいた。やりたい放題かと呆れかけたがよく考えればこの世界にはよく出入りしていたのだった。ここは自分の庭のような感覚なのかもしれない。


(庭ってわけでもないよ。だってここにはあれしかないからね。)


辺りを見回せば確かにそうだ。頭上の"泥"から俺たちのいるこの空間を守るようにドームみたいに広がるガラス板。そのガラス板がこの空間を照らす灯りも兼ねている。照らされているこの空間も狭いわけじゃない。見渡す限りではどこまで広がっているかわからないぐらいには広い。
それだけだった。
あと思うことといったらガラス板でできたこの世界は見た目通り繊細なんだろうということぐらい。


(驚かないの?なまえの"心象世界"に来たの初めてでしょ?)

「...ああ。確かに初めてだけど、考ええてみればそのままなんだなって...」


なまえの行動がすべてここから来てると思えば納得できた。
時々情緒不安定になるのは、きっと見上げたときあの"泥"が目に入るから。誰かがそれに気付き彼女に"大丈夫"の言葉をかけてその日一緒に寝てやれば次の日には笑顔になる。それは俺たちを使って"泥"から身を守っているということだ。つまり"泥"から空間を守るあのガラス板は


「だとしたら、あれは俺たちってことになるな。」

(そう、あれは僕たちとの思い出だよ。)


俺たちとの思い出といったってなまえの生きてきた時間に比べたら微々たるものだろうに。それでしか自分の身を守れなかったのはやっぱり寂しかったんだろう。
どんなに大人びて見えたってあの子は年相応の子どもなんだ。大人になれる日なんて二度と来ないどこぞの御伽噺のような子。


「そう。私は無い物ねだりするどうしようもない子どもよ。」


通る声だった。
声のする方を振り返ると、そこにいたのは見慣れた赤い戦闘服を着たなまえがいた。

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