真っ先に駆けつけたのはジョーだった。そのあとイワンを抱いたギルモア博士が慌てて駆けつける。
俺に抱えられたまま微動だにしないなまえを見て二人とも目を見開いた。


「と、とにかく治療室に...!」


ギルモア博士は抱いていたイワンをフランソワーズに預け先に治療室に向かう。なまえを抱え直して俺もギルモア博士の後を追った。

治療室の寝台の上になまえを寝かせるなり、俺は即座に追い出される。
なまえは機械の体してたって中身は年頃の女の子ということを配慮した、博士なりの気配りなのだろう。昔からそうだったのを知っているから俺は素直に治療室を出て、ジョーとフランソワーズが待つリビングに向かった。


「なまえは...?」

「...わからん。今博士がみてる」


ソファに座っていたフランソワーズが項垂れた。この日のために一番張り切っていたのは彼女だ。その分ショックも大きいんだろう。
隣に座るジョーだって今日に至るまでの経緯を知っている。昨日の夕食のときも「明日は楽しんでおいで」となまえに言っていた。
それを見てただ立ち尽くすしかない俺だってやり場のない気持ちでいっぱいだ。
何がどうしてこうなってしまったのか、今の俺たちは治療室で同じ気持ちで原因を究明しているであろう博士を待つしかなかった。

ジョーたちの正面にあるソファに腰を下ろす。やり場のない気持ちが渦巻く頭が自然と下に向かう。
その途中だった。
正面にいるフランソワーズに抱かれた赤ん坊のイワンの手が、微かに動いているように見えた。


「...。イワン...?」


自分でも驚くほど細く出た声を敏感に聞きとったのはやはりフランソワーズだった。
俺の声に我に返った彼女は自らの抱く赤ん坊を見る。その目には俺と同じように微かに動くイワンの手が写っているに違いない。


「...イワン、あなた...起きているの...?」


つい先ほどまで眠っていたはずのイワンが起きている。その動く手は確かな証拠だった。
イワンが起きていればなまえがああなってしまった原因がわかるかもしれない。いつだってなまえの変化に最初に気付いたのは血を分けた弟のイワンだったから、今回だって。
確証の持てない根拠に俺たちは縋るしかなかった。どんなに強くたって俺たちは家族一人救えないのだ。


「イワン教えてくれ。君にならわかるだろう?」


ジョーがそれを口に出した。
するとイワンの手はピタリと動きを止めた。その瞬間誰もが絶望に似た何かを感じたが、それすぐにかき消された。


(そんなに失望しないでよ。僕は起きてるよ。)


頭に響くその声に俺たちは一斉にイワンを見やった。
そんな俺たちに反応なんて気にも止めず、イワンは自らの能力でフランソワーズの腕の中から抜け出し宙に浮かび上がった。

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