うちの場合、時間というのは目安だ。

家族といっても性格も出生も違う。ジョーやピュンマのように時間を厳守するやつもいれば、ジェットやグレートのように平気で遅刻するやつもいる。だから言葉にこそ出さないが日常生活に置いて告げられる時間は目安になるわけである。これは家族が互いを理解した上で出した結論というわけなのだ。

と言いながら律儀に玄関で連れを待つ俺は律儀なんだと思う。
好きにしていいと言われたらもっぱら部屋に引きこもって本を読んでるわけだが、今日は外出だから訳が違う。
フランソワーズに告げられた時間から三十分は過ぎていた。彼女も時間にはルーズな方だから仕方ないと思うし、女の支度は長いと聞くから尚更仕方ない。
それに何故だか一緒に出掛ける連れよりも張り切っていた。だから待つことになるんだろうと腹を括ってはいたが、やはり溜まるものは溜まる。俺は滅多に身につけない腕時計を見直して一つため息をついた。


「おまたせ。」

「...ああ、随分待たされたぞ。」


ようやく姿を現したフランソワーズは満足げな顔をしていた。何度も言うようだが今から一緒に出掛けるのは彼女ではない。彼女なら自らジョーを誘い、出掛けるはずだ。
俺が待っていたのはその彼女の影に隠れている小さい影の方。


「ほらなまえ、隠れてちゃダメよ」


そう言われながら恐る恐る姿を現した。俺が出掛ける約束をしたのは彼女、なまえだ。


「大丈夫よなまえ。鏡も見たでしょ?すごく綺麗だから。」



普段の彼女と受ける印象が違うのはフランソワーズが張り切った成果と言えるだろう。着てるものも薄く塗られた化粧も年相応で可愛らしい。
普段からそうやってもう少し欲張ればいいのにとつくづく思う。

彼女は自分に関して非常に無頓着だ。それこそ年相応らしさがない。着飾ることもしなければ外出だってしたがらない。もっぱら家に引きこもり本を読んでいるか、弟の世話ばかり。倍の年である俺と同じような生活をしているのだ。
俺の場合は面倒に巻き込まれたくないのがあるが、彼女の場合、外の世界にさして興味がないのだ。否何に興味を示せばいいかわからないと言った方がいい。

なまえを束縛していた"孤独"は未だ彼女に深く刻み込まれているというわけだ。

それを問い詰めてもきりがないから俺は軽く頭を振った。
その仕草を敏感に感じ取ったなまえが不安気な表情をして見上げてくるが、俺は軽く笑い正直に感想を述べた。


「ああ、可愛いよ」


するとなまえは驚いたように目を丸くしたが、すぐに目を細め俯いてしまう。口の端が少し上がっていて、頬も少し赤くなっている。照れているのだ。


「それじゃあ行こうか、なまえ」


なまえは俯いたままだが小さく頷いた。そして再び俺を確認するように見上げる。
俺はそれに応えるように右手を、差し出した。

ゆっくりと伸ばされる彼女の手は、俺の手の上に辿り着く、はずだった

糸が切れたように倒れてくるなまえの体を反射的に受け止めたところでフランソワーズの悲鳴が家に響いた。
倒れてきたなまえを確認するように顔を覗き込むと、ついさっきまでの生き生きした表情が嘘のように、死んだように眠っていた。

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