「黄瀬くん、黄瀬くん」



肩をたたかれ名前を呼ばれた休憩時間。その声は最近知り合った先輩の幼馴染の人の声だということはわかった。だがこの人から声をかけてくるなんて珍しい、と思って振り向いた。途端、頬になにか突っかかった。
ああ、これははめられた、と少し目線を上にすれば案の定、先輩の幼馴染がいた。ニコニコと笑顔の表情とは裏腹に片方の人差し指は頬をつついている。



「黄瀬くんもこういうの引っかかるんだね」


「そりゃ、俺だって人間ですし...?」



先輩の幼馴染も立派な先輩だ。その先輩は笑顔のまま頬から指を離してくれた。よくみれば彼をひっかけた人差し指とは反対の手には少し大きめの紙袋。それなんすか?と聞いてみると思い出したように差し出した。



「委員会の差し入れで貰ったんだけどね、余っちゃったからバスケ部さんもどうかなーと思って」



一体何をどれだけ貰ったのだろうかその委員会は。紙袋を覗き込めば無造作に入った缶ジュース達。バスケ部も結構な人数いるが、これなら全員分あるだろう。
というかこんなの一人で持ってきたのか。もともと無茶ばかりする人だと聞いてたし、その場面に遭遇したこともある。というか今まさにその状況。



「持つっスよ、先輩」


「え?大丈夫だよ?部室の冷蔵庫に詰めてくるだけだもん」


「先輩がそれでよくても俺がよくないっス」



その袋を奪い取れば思っていた以上の重量。先輩の手を見ればその重量に耐えてきた手が赤くなっている。それに、と彼は続けた。



「こうした方が、付き合ってるっぽくないスか?」



赤くなった手を握って顔を近づけてそう言ってやった。さっきの仕返しと言わんばかりに。でもきっと先輩には伝わらないんだろうな。この人はそういう人だ。
すると先輩はみるみる顔を赤くしていく。これはこれでおもしろい、なんて思ってたら手を振り払って走って逃げてしまった。ああ、可愛い反応するなーなんて呑気に考えてたら後ろからものすごい速さの足音が聞こえてきた。
振り返ってそれを確認しようとした時には後頭部に衝撃が走っていた。



「お前はなに部外者たぶらかしてんだ!!」



こんなことするのはあの先輩しかいない。
衝撃で倒れる体。体育館の床に衝突する寸前、差し入れをくれた先輩が幼馴染と友人に泣きついているのが見えた。こんな風景も何回目なんだろうと思い返した途端、床との衝突を果たしたのだった。

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