「みょうじ先輩って小堀先輩と喧嘩とかしたことあるんスか?」
パックジュースのストローを口に含みながら黄瀬が聞いた。隣を歩いていたなまえは行儀が悪いと少し眉間に皺を寄せたが怖くはなかった。
ストローから口を離して改めて聞けばなまえが考え込むように首を傾げる。
「うーん、したことないことはないんだけど...」
「けど?」
「...うん、言うの恥ずかしいから言わない!」
「なんスかそれ!」
その口からなにが出てくるのか期待していたのに結局は教えてくれない。昇降口までくると彼女はばいばいと手を振って外履きに履き替え校庭に向かってしまう。これから体育の授業なのだと話していた。
「なーんかはぐらかされて終わったんスけどー」
「何がはぐらかされたって?」
黄瀬がその声に振り向けば今の今まで話に上がっていたもう片方の先輩がいた。こっちの先輩も次は体育の授業のようだ。
「あ、小堀先輩。いや、今みょうじ先輩に小堀先輩と喧嘩したことあるですかーって聞いたんスよ。」
「それでなまえはなんて?」
「恥ずかしいから言わないー。だそうです。」
「ははっ、確かにあれは恥ずかしい」
「え、考えてること同じ?!」
考えてること同じなんてやっぱりこの幼馴染はすごいんだなと改めて思ったり。
...でもそれってもしかして"喧嘩したことが少ないから"覚えてるんじゃないのか。二人が喧嘩してるところなんて見たことないし想像もできない。そんな二人が言うことを拒むそれはきっと想像より凄いものだったんだろうな、と勝手に結論付ける。
「俺もこれから授業だから、また今度な」
「それ覚えててくださいね!絶対教えてください!」
「...やっぱり恥ずかしいな」
「先輩!!」
小堀もそのまま昇降口のほうに行ってしまった。でも気の優しい先輩だから結局教えてくれるんではないんだろうか。そういう期待もしながら持っていたパックジュースのストローをくわえて中身を吸う。ズゴッと中身がなくなる音がした。