明日は試合

緊張が今日一日の行動を縛りつける。それは時間が経つにつれきつくなってくる。
なまえは金縛りに近いそれに悩まされていた。フィールドに立つ選手ではないけれど、自分の出来ることは全部やった。でも、でも、もしも、もしも、
考え出したら止められない。自分でわかっているはずなのに止められない。
昔からそうだ、自分の性格が嫌いだった。考えなくてもいいことを考えてしまう、やめようと思っても"集中"が切れることはない。

そう、たとえば、"外界"からの衝撃がなければ。


「なまえ」


強く瞑っていた目を開いた。いつの間にか頭を抱えていた手をゆっくりと降ろす。肩に乗せられた見覚えのあるテーピングされた指。いつもなまえを"外界"に引き戻してくれる大きな手。振り向き、見上げれば、幼馴染がそこにいた。


「先生に課題を出してきたから帰るのだよ」


机の横にかかっていた鞄を彼女の机の上に置く。なまえは机の中にしまったままの教科書を鞄にしまう。最後にしまおうとした小さな筆箱、それについている一つのキーホルダー。幼馴染、緑間真太郎には見覚えがあった。


「...まだ持っていたのか」


小さく揺れるキーホルダーを見て彼はため息をつく。なんせそのキーホルダーは小学生の頃なまえに送った初めてのプレゼントなのだから。思い出すだけで恥ずかしい。そんな彼の心境もしらないで彼女は嬉しそうにそれを見せてくれた。


「真太郎くんがくれたこれね、すごいんだよ!中学受験も受かったし高校受験も受かったんだよ!」

「それはお前が人事を尽くしたからであってキーホルダー一つのおかげではないのだよ。」

「でもこれくれなかったら受験も頑張れなかったし学校も楽しくなかった」


そう言うとなまえは少し視線を下に落とす。でもすぐに何事もなかったように手に持ったままの筆箱を鞄にしまう。席を立ち、何かを思い出したように制服のポケットに手を入れた。


「これあげる!」

「...なんなのだよ」


彼女の手には緑色のキーホルダー。呆気にとられていると手を引かれそれを押し付けられた。満足した彼女は満面の笑みでこう言った。


「それあげるから、試合頑張ってね!」


どことなくあの頃と重なるそれはきっと彼女がその出来事を覚えていたからだろう。緑間は押し付けられたキーホルダーを自分の制服のポケットにしまい込む。
そして彼は「ああ、」と短く答えるだけだった。だがその顔が滅多に見ることのない笑顔の類だったことはなまえだけが知っている。

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