時計は正午を指している。選手と違って食事が支給されない観客席は一時的に席を立つことになる。この人たち例外ではないわけで。会場近くのファーストフード店、試合から流れてきた人で混んでいたが、その中から高尾は彼らを見つけてしまった。
「おー、あれ誠凛じゃん?」
高尾が指さす先にいたのは見たことのある人影。数は二つ。大きい影と小さい影。大きい影の前には山のように積まれたハンバーガー。こんなに食べる人を彼等はそう多くは知らない。
「...おい、場所を変えるぞ」
「あ、緑間くん」
「んあ?」
「それになまえさんも高尾くんも」
「よっす!誠凛さんは偵察か?」
「いえ、僕個人が来たかったので火神くんについてきてもらいました。」
今にも帰ってしまいそうな緑間の腕を掴んでそこにいた誠凛の二人、黒子と火神のそばまで歩いていく高尾。
近くを見回してみるがやはり近くの会場で試合があったためやはり混んでいて空いている席が見つからない。
「高尾、席がないから他をあたるのだよ」
「えー、いいじゃん!次の試合までまだ時間あるし待ってれば」
「そうだよ。別に監督に呼び出されてるわけじゃないからね、待ってようよ。」
「...あ、そこ空きましたよ」
黒子が隣の四人席を指さす。
ほーらすぐ空いたじゃん、と高尾はさっさとその席に座ってしまう。なまえも彼の対面に座る。
もう諦めたのは緑間は盛大なため息をひとつついて席のそばまでいく。なまえの隣りの椅子に鞄を置いて中から財布を取り出した。
「なまえ、どれにするんだ」
「うーん、あの真ん中の下のやつがいいな...」
「俺はその上のやつがいい!」
「お前の分は知らん」
「ちょ、ひでぇ!」
「あ、真太郎くんお金、」
「現金がないわけではない、いいから座ってるのだよ」
緑間はそう言うとレジの方に歩いて行ってしまう。それを追って高尾も席を立ち上がる。
それを見ていた火神のハンバーガーを食べる手が止まっていた。
「...誰だあれ」
「緑間くんです」
そういうことじゃねえ!とシェイクを飲む黒子に噛みつくが噛みつかれた本人は痛くもかゆくもないようで。
それを見てるなまえはニコニコと嬉しそうに隣の二人を眺めていた。そしてたまに長いレジの列に並ぶ二人を目に写す。
その様子を見て気付いたのは黒子。内心的には「ああ、ようやくか」というところ。
「...やっとですかなまえさん」
「ん?なにがやっとなの?」
「緑間くんとの、あれですよ」
「...あれ?」
「...ようやく付き合いだしたんですねって意味です」
彼は急に何を言い出すんだろう、となまえは目を丸くしたが、改めて言われると少し恥ずかしくなってくる。すぐに顔を赤くして俯いてしまった。
「は?こいつらあれで付き合ってなかったのか?」
「そうなんです、あれで付き合ってなかったんですよ」
「な、何回も言わなくてもいいよっ!」
付き合ってる、付き合ってると何回も繰り返す二人に反論してみるが全く効果はなくその話題を引きずったまま。
ああこんなことなら最初緑間の言ってたいとおりに席がないからと場所を変えることに賛成していればよかった、と思ったのもあとのまつり。
黒子はそんななまえを見ると、ずっと持っていたシェイクをトレイの上に乗せるとなまえさん、と名前を呼んだ。
「でも僕は今の二人を見てると嬉しくなるので、そのままでいてくださいね」
そう言って笑った。
先日付き合いだしたお祝いを高尾にされたばかりだが、黒子の言葉に嬉しくないわけがない。
「...うんっ」
顔は真っ赤、俯いたままだったが、小さく笑ってこくんと頷いた。