「なまえちゃん、なまえちゃん」
「...ん?」
パァン
破裂音が体育館に響いた。
一気に静まり返った。といっても部活はとっくに終わっていてここにいるのは三名だけだが。
なまえの頭上からは紙吹雪が落ちてくる。高尾の手には所詮クラッカーの残骸。何が起きているのかわからない。
「いやね、そういえば二人がお付き合い始めたのお祝いしてねぇなーって」
真ちゃんには別の用意してるんだよね、と鞄の中をごそごそと漁って何かを探している。ついさっきまで自主練習をしていた緑間だが高尾の突飛な行動に呆れて手が止まっている。
高尾の鞄の中から出てきたのは平らな箱。それをそのまま渡すのかと思ったが、高尾はそんな単純な男ではなかった。箱の蓋を開ければ中には何やら白い塊。
そこで緑間は察する。というか蓋を開けた時点でおかしいと思った。
「和成くんからぁ、真ちゃんにぃ、プレゼントっ!!」
箱をそのまま緑間に投げつけた。
べちゃり
再び体育館に響く。
ぽろりと箱が落下する。腹を抱えて笑う高尾、びっくりして動けなくなっているなまえ、そして、
「真ちゃんっ、まじ、受けるんですけど!!」
「え、し、真太郎くんっ!!」
「...。」
箱の中身を顔で受け止めた緑間。箱の中身は"パイ"。高尾はお祝いと称してパイを投げつけたのだ。
緑間は無言のまま投げつけられたパイを手で取り払う。手の上に残ったパイ、それを迷うことなく高尾に投げ返してやった。
「ぶっ、」
「祝ってくれた礼なのだよ」
今度は高尾がそれを顔面で受け止めた。投げつけられたパイは音をたてて床に落下する。
ついさっきまで慌てていたなまえがその残骸をみて動きをとめた。そうだ、と小さく口にした。
「お祝い!これやろうよ!」
急に何を言い出すのかと緑間も高尾もクリームまみれの顔をなまえに向けた。そんな二人を見て少し笑ってしまうが、そのまま続ける。
「もうすぐ先輩たちは引退でしょ?」
「まあ、今度の試合でね」
「そのあとに先輩たちに帰ってきてもらって、これやろうよ!」
「何故これなのだよ」
「じゃあ他になにかある?」
「真ちゃんなまえちゃんに弱すぎ!」
「うるさい黙れ」
緑間が床に落ちたパイを拾ってまた高尾に投げつけた。
その後一つのパイの投げ合いは思った以上に白熱して体育館が大惨事になったのは言うまでもない。それを三人で掃除したのも、知ってるのは三人だけ。
この出来事が後に大きな変化をもたらすことは、三人以外誰も知らない。