▽大坪先輩の場合
授業が終わって教師が教室を出ていく。教室はさっきまでの静けさと打って変わって騒がしくなる。
騒がしいのが嫌いなわけじゃない。そんなこと言ったら試合中はもっと騒がしいじゃないか。
...ああ。もうすぐ引退か。
ふと思い出す。なんだか信じられない。というか実感がわかない。緑間たちが入ってきたばかりの頃は一年なんて長いように感じてたのに今じゃ一年がもっとあってもいいんじゃないかなんて思う。
教科書を机の中にしまって顔を上げれば変わらない教室の風景。これが試合の風景ならいいのにな。
教室の中を冷たい風が通り抜けた。寒い。誰だ窓開けた奴。
椅子から立ち上がって窓に近づけば校庭にはたった今体育の授業を終えた生徒たちが校舎に戻って行く光景が見えた。生徒の流れの後ろの方に、緑色の頭とそれよりも少し小さい人影が二つ見えた。あれは間違いなく後輩たちだ。
あいつらは来年も再来年もここにいれる。なんだか羨ましい。
...そういえばこの間の事件以来緑間とみょうじが前にも増して仲がよくなったような気がする。
周りに聞けばその事件は俺の想像しているものよりもっと壮大なものだったらしい。いろんな意味で。俺は宮地と木村が本当にパイナップル投げてたことしか知らないが、高尾に聞けばよくわかると言われた。あいつはその動画を撮っていたらしい。今日あたり高尾に聞いてみよう。
まあ緑間とみょうじが仲良いのは入ってきた頃からだった。幼馴染で同中卒業なら尚更。見てて面白い部分もあったからあの二人にはそのまま仲良くしていて欲しかった。いや今でも仲良いが。とにかく喧嘩はしてほしくない。想像できないし、なったらなったで大変なことになりそうな気がする。
校舎に向かって歩いていたはずの三人が止まったように見えた。そしてこっちを見てる気がする。ああ、やっぱり高尾は本当に目がいいんだな。緑色の頭の隣りにいる二人がこっちに向かって手を振っているのがわかった。緑色の頭は手を振る片方の人物に何か言われたのか、小さく手を振っている。あれはきっとみょうじだ。
ああ、やっぱりもう一年あいつらと一緒にバスケがしたいな。少し寂しくなったがあの堅物の緑色の頭が手を振っているのが珍しくて、おれも振り返してやった。