肩を叩かれて、そこでようやく我に返った。目の前には職員室の前で会った先輩の姿。なんでこの人がここにいるのかわからなくて辺りを見回せば見覚えのある、ここはこの先輩に指定された体育館裏ではないか。ああ、また私は私の知らないところで何かやらかしたのか。自己嫌悪に陥っていると先輩が口を開く。


「...どう、答えは出してくれた?」


答え

そうだ私は彼の問いに答えるために考えていたんだ。思い返してみてもその答えが出た痕跡はない。出ていたらこんなになるまで"集中"していないと思う。


「...わかりません、」

「え?」

「わからないんです、いくら考えても答えが出てこないんです。...すみません、やっぱりもう少し時間を、」

「...じゃあさ、こういうのはどう?」


答えを出す時間をもらったのにもう少しくれというのは申し訳ないと思うけど、そうしなきゃ問いには答えられない。恐る恐る口にした言葉は先輩の言葉にかぶせられた。


「俺と付き合って答えを出すって言うのは」


先輩は優しく笑ってくれた。でもその笑顔とは裏腹に投げかけられた言葉は深く突き刺さる。
いつだってそうだ、こんなに悩むのは私だけだから誰も理解してくれない、どれだけ悩んで出した答えか知らないで、簡単に口にする。答えはいらないんだって。

彼は、いつも近くにいてくれた彼は、そんなことしないのに、答えを一緒に探してくれる、欲しい答えをくれるのに

涙で視界が揺れる。咄嗟に顔を俯けてしまう。どんどん溢れてくる涙が、落ちてしまいそう。
その時だった。重い音をたてて私の後ろにある扉が開く。部活中滅多に開けられることのないその扉を開けたのは


「邪魔するのだよ」


真太郎くんだった

びっくりしたのは私だけじゃない、先輩の方もちらりと見たら目を見開いていた。なんてしている間に私は真太郎くんに手を引かれ先輩から離される。もう何が起きてるのか私にはわからない。真相を聞こうと彼を見上げるが、視線は先輩を睨みつけるように向けられていた。


「俺なら先輩みたいな無責任な答えは与えない。」

「はっ、なにいって、」

「こいつを苦しめる問いも与えないし見つからない答えは一緒に探す。」

「...っ」

「望むなら、こいつが求める答えを与えてやれる。」


先輩は苦虫を噛んだように表情を歪めた。さっきまでの優しかった笑顔はもうどこにも見当たらない。
そうだ。真太郎くんはいつだってそうだった。いつだって私が望んだものをくれたじゃないか。

...答えはもう出てたんだ。


「先輩、私、決めました」

「...!ど、どうなんだ...?」

「私、やっぱり真太郎くんの方が好きです」


次の瞬間、私と真太郎くんの横を何か大きい塊が通り抜ける。よくみるとそれは、パイナップル...?しかも普段お店で見ないぐらい硬そうな。そのパイナップルは今立ちつくしている先輩の顔面にクリーンヒット。


「リア充はパイナップルにつぶされて死んでしまえ!!」

「思いっきりやっちまえ!パイナップル余ってるから!!」


いくつかのパイナップルを抱えた宮地先輩と木村先輩が更に通り抜けた。そして抱えていたそれを先輩に追い打ちをかけるように投げつけている。
更に体育館の中からは聞き慣れた笑い声が響いていた。高尾くんだ、片手でお腹を抱えてもう片方の手で携帯を持ってこちらに向けている。気付いたのは私より真太郎くんの方が早くて、握ったままだった私の手を離してい一目散に追いかけていく。


「高尾!何も言わずにそれを消すのだよ!!」

「やだね!これは保存するし消さない!」

「高尾ぉ!!」


どうやら今までの一連の出来事はあの携帯の中にあるらしい。改めて思うとなんだか、恥ずかしくなってきた、ああ顔が熱くなってきた。今すぐこの場から立ち去りたいし穴があったら全力で入りたい。


「ほらほら真ちゃんも返事返さなきゃ!」

「っ!」


体育館を一回りして帰ってきた高尾くんの手にはまだ録画ボタンがオンのままの携帯。真太郎くんは私の前で立ち止まって顔を真っ赤にしている。きっと私も同じようになっている。私からなにを言えばいいのかわからなくて真太郎くんの言葉を待っていると、視線をそらされた。


「...。...つ、つきあってやらないこともないのだよ」


小さく聞こえた真太郎くんの言葉。すぐさま私に背を向けてしまう。ピロンと高尾くんの携帯が可愛らしい音をたてた。ああやっと撮るのをやめてくれたのか。
と思っていたら体育館全体が歓喜の声で溢れた。何事なのかと改めて見渡せばバスケ部のほとんどがそこにはいた。...もう今日の部活、普通に仕事が出来る気がしない。

でも、この胸が温かくなるこの感覚はいやじゃない


「ありがとう、真太郎くんっ!」


その温かさを自覚したらなんだか嬉しくなって、恥ずかしいのも平気になる錯覚になって、思わず真太郎くんに飛びついてしまった。

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