その事件は突然起きた。

クラス全員のプリントを集めて担任に提出しに行くのが俺の仕事。仕事自体はなんの問題なく終了したのだが、問題はそのあとだった。
職員室を出てすぐだった。みょうじの後ろ姿が見えたから声かけてこうと思って一歩踏み出したときその違和感に気付いた。
みょうじが、知らない男子と話している。正確には話しかけられている。話しかている方は見たことある、同じ学年の階で何度かすれ違った。


「...それってどういう意味ですか?」

「どういうって、そのままの意味だけど」

「...好きってことですか?」

「うん、そう言ったつもりなんだけど」


おいおいおいおいまじかよ、意外過ぎて言葉がない。みょうじに声をかけるどころか出くわしてしまったその場面に唖然とする。
みょうじは誰にだって優しいし部活も勉強もできる奴だから少なからずそういう輩がいることは知っていたが、実際にそれを目の前にするとショックが大きい。
別に俺が狙ってたわけじゃない、あいつが緑間や高尾や大坪や木村以外と仲良くしてる姿が想像できないだけだ。特に緑間の方、聞けば二人で似たようなキーホルダー付けてるって話じゃないか。高尾から聞いた。


「あの、私、そういうのは、」

「少しでもいいから考えてほしいんだ」

「そ、そうじゃなくて...!」

「今日の放課後、体育館の裏で待ってるからさ」


男の方はそう笑顔で言い残してみょうじに背を向けた。体育館の裏とか俺たちの練習中にかぶせてきやがってわざとかこら。というか職員室の真ん前で普通そういうこと言うか?あいつ何考えてんだよまじわけわかんない。
などと一人で勝手に考えてるとみょうじがこちらに振り返る。教室に帰ろうとしたんだろうけど、そこには俺がいるわけで、必然的にはち合わせるわけで、いやこの場合ここにいる俺が悪いんだろうけど。さて何を言われるんだろうと覚悟していたが、裏切られた。


「...。」

「っ、おい、みょうじ!」


俺に気付くことなく横を通り抜けていってしまう。呼んでも気がつかない、これは知っている、あいつが考え過ぎて自分の世界に入ってしまったとき。手には一枚のプリント、あれを職員室に持ってくるために来ただろうにそれすら忘れている。きっとあの調子じゃみょうじから誰かに伝わる様子はない。だったら目撃者の俺から伝えなくては。
なんでここまで必死になるのか、自分でも不思議で仕方ないがとりあえずこくった方の男とは付き合ってほしくなという願望があった。みょうじを知ってるやつなら誰もが思うことだ。あいつと一緒にいて違和感がないのは、一人しかいないってことに。

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