「あなたが"新しい人"?」
指定の場所へ向かえばそこには女性型のトランスフォーマーがいた。笑顔が印象的な自分より小柄なトランスフォーマー。背中にはビークルモードのときの名残である翼、サイバトロンには少ない飛行型だ。
「ああ、そうだ」
サイバトロンの数少ない飛行型である副司令とは正反対。いつも一直線に飛んでいく彼と違い彼女はきっと綺麗な曲線を描くんだろう。
彼女のことを述べればそうなる。しかしその笑顔が徐々に崩れていく。正確には表情が戻っていく、無表情に近づいていく。
「...あなたもきっとみんなと同じ」
発せられた声は音に近かった。聞き落としそうになるほど小さな音。その音を発し終えると彼女は少しづつ俯いていく。先程の笑顔の名残はどこにもみえない。
「それはどういう意味だ?」
「どういうって、あなたも知ってるでしょ?私は"嘘つき"なのよ?」
「話は聞いている」
「だったら尚更よ。嫌なら早く嫌って言ってよ!」
感情的に声を上げる。それは彼女の悲痛の叫びにしか聞こえなかった。彼女の掌は強く握られミシミシと不穏な音が聞こえてくる。
「私は嫌だとは思っていない」
そう言ったってきっと彼女は俯けた顔を上げてくれはしないだろう。確信に近い想像だった。
「みんな最初そうやって言ってたよ。でも陰でいろんなこと言ってた。」
やはり彼女は顔を上げてはくれない。それどころかもっと深く俯いてしまう。信じてもらえないことは分かって発した言葉だ。彼女のその返答も予想内だった。
「確かに最初この異動に疑問は感じた」
「...。」
「だがその疑問は君に対してのものじゃない」
人手が足りないわけではない。むしろ今自分がいるこの部署こそ人手が足りないんじゃないかと聞き返したくなる状況だった。
話は聞いていた。彼女は少し前まで"嘘つき"と呼ばれていたこと。それが私が彼女のもとに異動してきた最大の理由なのだ。
「確かに君は"嘘つき"と呼ばれていた。それでも君は君だ。」
「...。」
「今の君があるのは"過去の君"がいるおかげだ」
「...っ」
「"嘘つきの君"がいたから"今の君"があるんじゃないのか?」
「!」
今も未来もそれ自体には何の意味も持たない。過去があるから繋がることが出来る、意味を持つことが出来る。
彼女はずっと俯けていた顔をようやくあげてくれた。平和を願う空色の瞳は不安に揺れているように見えた。
「私はこれから"今の君"と行動を共にするんだ」
"今の君"に手を差し伸べる。それは過去から生まれた彼女を受け入れる行為。それには彼女自身が過去を受け入れなければならない。今の姿だけでは何の意味も持たないのだから。
「私は何があっても君を信じよう。だから、君も私のことを信じてほしい。」
差し出されたその手には一片の打算もなく
「...なまえ、」
「それが君の名前か?」
「あなたは?」
「私は、インフェルノ」